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アメリカ最高裁が積極的是正措置に違憲判決

 令和5年(西暦2023年、皇暦2683年)6月29日、アメリカ合衆国の連邦最高裁判所がハーバード大学等で人種を考慮して入学者を選抜する「積極的是正措置」を行っていることについて「憲法違反」との判決を下しました。
 このことのポイントは、次の3点です。
 第一に、アメリカ司法界では保守派もリベラル派同様「司法積極主義」に立っている、ということ。日本では保守派もリベラル派も司法消極主義ですから、そこが大きな違いです。
 第二に、この大学入試における積極的是正措置は一見「マイノリティ優遇」に見えますが、実際にはアジア人やユダヤ人と言ったマイノリティを排除することに利用されていたこと。
 第三に、積極的是正措置を日本でも行うための憲法論議を今の内から行う必要があること。
 まず、第一の論点から行きますが、その前に前提条件に付いて。
 東京新聞が記事中で「司法のトランプ化」等という意味不明なことを言っていましたが、アメリカ最高裁は保守派の判事も含めトランプ前大統領による不正選挙疑惑を却下しており、決して司法は「トランプ化」等していません。
 むしろ最高裁判事の任命は上院の同意人事であり、上院議長は副大統領ですから、トランプ政権におけるアメリカ最高裁の判事の任命にはマイク・ペンス前副大統領の意向が強く反映されていたとみるべきです。
 また、アメリカ最高裁の保守派についてリベラル派は女性差別や人種差別のレッテルを貼りたがりますが、それも一面的な見方でしょう。
 令和4年(西暦2022年、皇暦2682年)6月24日、アメリカ最高裁は「胎児は人間ではない」というロジックで初期中絶と中期中絶へのあらゆる法規制を憲法違反扱いし後期中絶をも容認する途を拓いた「ロー対ウェイド判決」を撤回、中期中絶と後期中絶を禁止したミシシッピ川の州法を合憲とする、画期的な判決(ドブス対ジャクソン婦人科判決)を下しました。これについてリベラル派は「女性差別」「女性のことは女性が決めるべき」等と述べましたが、女性の判事がドブス対ジャクソン婦人科判決に賛成していたことには触れませんでした。
 今回の判決も黒人のクラレンス・トーマス判事が賛成に回っています。トーマス判事は積極的是正措置が却って黒人差別を煽っている(彼自身成績優秀者であるのに積極的是正措置を利用した低成績者であるとの偏見を持たれた)という持論を持っています。
 以上のことを前提とした上で、アメリカ最高裁では保守派もリベラル派も「司法積極主義」である、という共通点があるようです。日本ではリベラル派が司法積極主義で保守派が司法消極主義である、というような説明が為されていますが、私が調べた限りではアメリカの保守派判事の唱える「原意主義」は、日本の最高裁を司法消極主義であると定義した場合には「司法消極主義」に分類すべきものであると考えます。
 とは言え、私は法学者ではないので原意主義については詳しくありませんが、一応団上智也氏の「クラレンス・トーマス裁判官の憲法理論」という論文を基に簡単に私の理解した原意主義について述べます。
 原意主義というのは簡単に言うと「解釈改憲を否定する思想」です。
 もっとも、憲法には解釈の別れる条項もあります。これについて、広義の原意主義では民主的に選ばれた連邦議会による解釈を優先する立場も含まれますが、トーマス判事ら現在の原意主義の主流派の間では、いわゆる「建国の父」らによる「立法者の意思」を重視して解釈される傾向にあるようです。
 また、トーマス判事は成文憲法の上位に自然法があり、基本的人権(自然権)は憲法典制定以前から存在する天賦の権利であるという見解で、これも今の原意主義の主流派的見解となっています。この立場に立った場合、民主的に選ばれていても個人の権利を過度に連邦政府が侵害した場合には「違憲判決」が下されることになりますから、憲法判断を避ける日本の最高裁と比べて司法積極主義の傾向があります。
 例えば、トーマス判事は警察が麻薬捜査において被疑者の家が施錠されていなかったことから「ノックと告知」なく被疑者の家を捜索し現行犯逮捕した事件で、州の裁判所による合憲判断を取り消し「違憲無効」であるとしています。このように法の厳格な適用のためには積極的に違憲判決を下すのが原意主義の特徴です。
(ロッキード事件では当時違法な司法取引が行われたのにも関わらず有罪判決が下ったのとは対照的です。)
 この例でも判るように、トーマス判事はむしろ人権保障の手段として原意主義を用いているという側面もあり、リベラル派が今回の判決を人種差別的であると見做すのはあまりにも一方的な評価でしょう。むしろ日本の最高裁ももっと積極的に違憲判決を下すべきです。
 第二に、今回の判決でも触れられているようですが、現行の制度は概ね人口比に応じて合格者を決めるため、同じマイノリティであってもアジア人やユダヤ人には不利になる側面があります。
 今回の裁判でも原告にはアジア系アメリカ人がいたようなので、今の制度が実質的にマイノリティ優遇どころか特定のマイノリティを冷遇しているという事が大きな争点となった、と言えます。
 そもそもバイデン大統領は今回の判決に抗議をしていますが、黒人射殺市長を運輸長官や駐日大使に起用した男が何を言っている、という話です。
 第三に、私も積極的是正措置が必要になってくる場面はあると思いますが、それは憲法に明記する必要があることではないか、と考えます。でないと日本でもアメリカ同様の訴訟が繰り返されることになるでしょう。

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