「遥かな国 遠い国」

格安古本。

「どくとるマンボウ…」は知ってたけど、初めて触れた北杜夫。

5つの短編が収められてるけれど、どれも不思議で面白かった。

著者が、緻密にプランを立てて、その通りに、暗喩を含ませて書いた、美しい絢爛な文章とは違って、北杜夫の場合、特別、結果を考慮せずに、書けるに任せて存分に伸び伸びと書いたのではないかと思う。

だから、ちゃんとしたストーリーがないというか、物語が始まって、起承転結があって、終わるという定番の流れがない。

そして、登場人物の関係性を感じないのだ。それぞれの人間の内面が中心に書いてあって。

表題作は、頭の弱い正太が漁船に乗って奮闘、挙げ句の果てにソ連に抑留されてしまう話だけど、白痴、あるいは精神薄弱の人間に対する大きな共感を感じる。「為助叔父」もだ。そこに、詩人のような純粋な魂を見出して、読者に提示してるような。まるで、アウトサイダー・ノベルだな。

最初の「三人の小市民」も、パチンコにハマった魔王を自称する男、空飛ぶ円盤マニアの集団と空き地の青年と老人、ピースの銀紙玉ばかりを作る偏執狂の青年、と3つの場面を描いているが、当時の安保闘争で沸く世間を尻目に、無関心を決め込む小市民の内面にこそ、時代を動かす狂気と怒りが隠されているということを比喩的に書いたのじゃないだろうか。


脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。