【邦画】「橋のない川」

1992年の、東陽一監督の「橋のない川」。地元図書館にDVDがあった。

住井すゑの同名ベストセラー小説が原作で、昔、島崎藤村の「破戒」と共に読んだか観たかしたと思うが。

明治から大正にかけて、奈良県の小森という地域に住む兄弟が主人公。
小森は被差別の地域であり、基本は、兄弟の目を通して、明治の四民平等政策の欺瞞から、“エッタ”と呼ばれて、ことあるごとに理不尽かつ不当な差別を受ける現実に翻弄されつつも、成長して青年となって、1922(大正11)年3月、部落解放運動団体である「全国水平社」の創立に至るまでを描く大作。

水平社創立に当たって「…人の世に熱あれ、人間に光あれ」という有名な宣言を起草したとされる西光万吉がモデルになってるのではないか?

小学校に通う2人だが、小森の出身ということで、いわれなき差別を受けるのだが、「破戒」みたく、出身地を隠したり、暗く卑屈になることはなく、子供ながらにしろ、自信を持って敢然と闘って生きていく。

小森の地域の、シッカリと面倒を見てくれる母と祖母(父は日露戦争で戦死)、ご近所さんなど周りの人々の優しさと助け、友情と初恋が、兄弟を支える。

不幸な事態に見舞われても、まだ希望が感じられるストーリー展開だ。

加えて、舞台となる日本の田舎の田園風景と自然の、なんと長閑で美しいことか。

そこに根を張って生活する人々の暮らしを、四季の移り変わりと共に、細部に渡って描写する。

理不尽な差別や身売りのような奉公と悲しい自殺、火事、トンネル落盤事故、米不足による米騒動など、衝撃のエピソードが続くが、抑制の効いた田園風景に溶け込む、比較的に静かな映像の連続で、抗わずに、部落解放に至る歴史の流れを待つというような展開で、テーマがテーマだけにザワつくことなく、落ち着いて観てられるのは良かった。

明治、大正に生きた被差別地域の人々を中心に、引いては、内面に闘志を燃やす、田舎の、日常と共にある土着性と心象風景を描いものと理解した。


脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。