「ヒトラーの正体」

著者は、政治家としてはアレレ?の人だったけど、ヒトラーとファシズムが生まれた背景を国際政治学者の立場から分析した好書。

まずは、ヒトラーとナチス(国家社会主義ドイツ労働者党)が、クーデターなど無理矢理な暴力で権力を掌握したのでは決してなく、国会の全議席の3分の1しかなかった野党のナチスが、ヒンデンブルグ大統領の任命によって合法的に政権に就いたということを忘れてはならないだろう。

当時、最も民主的な国家といわれたワイマール共和国の憲法に則った正当な手続きによってだ。

そして、権力を握るやいなや、自分を首相にまで押し上げてくれたワイマール共和国を一気に破壊するのだ。

なぜ、当時の大衆は、ヒトラーとナチスを熱狂的に支持したのだろうか?

まずは失業の解消である。政権を獲った時には600万人もの失業者がいたのに、わずか3年で完全雇用に近い状態にした。

そして、社会保障や源泉徴収制度、医療システムの整備、財形貯蓄の奨励等と国民を第一に考えた政策(ケインズ政策)を次々と導入して喝采を浴びたのだ。

失業者問題解決と景気拡大政策の要は、アウトバーン建設を始めとする財政支出による公共事業によって雇用を創出することだった。女性や若者を労働市場から除外して団体等のボランティアをやらせて、減税で企業活動を活性化、そして公共事業で雇用を創出したのだ。

ヒトラーとナチスといえば、ユダヤ人虐殺である。

もともとユダヤ教徒はヨーロッパ社会では差別や迫害の対象となってた。それだけにユダヤ人は宗教的にも人種的にも強固なアイデンティティを確立してきた歴史がある。

ヨーロッパのキリスト教社会の伝統の中で反ユダヤ主義が形成され、ヒトラーも、若い頃、挫折ばかりを味わってた中で、心の支えとして、この反ユダヤ主義に多いに感化されたのだろうと思われる。ヒトラーの心の内に産み付けられた反ユダヤ主義が、後のホロコーストに繋がっていくのだ。

独裁者は、常に独裁を否定しながら出て来るものだが、コロナや戦争、不況と将来が不安となる材料が幾つも揃ってる中で、権威主義や破壊性、統一性、ニヒリズムといったものに強く惹かれやすくなるのが大衆である。そして必ず憎悪の対象を生み出す。有事の際に本性が出るだろう。

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脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。