「幻の声 NHK広島8月6日」
古い新書だけど…。
8月6日、原爆が落ちた直後の広島で、ラジオから、交信を求める悲しげな女性の声が流れたのを、何人かの生き残った市民が聴いている。
当然、放送局も壊滅状態で、放送なんてできるわけがないと思われるが、聴いた人は絶対に幻聴の類いではないと主張する。
美しい声で「こちら広島中央放送局でございます。広島は空襲のため放送不能となりました。どうぞ大阪中央放送局、お願いいたします。大阪、お願いします。お願いします…」と何度か繰り返されてプツンと切れたという。
それから数時間経って、今度は男の声で「こちらは大阪中央放送局でございます。広島にかわりまして大阪から放送いたします」と放送が始まったという。
いったい声の女性は誰だったのか?
生き残った放送局の人々の証言、名簿、記録をもとに“幻の声”を追ったものだ。
結果、辛々生き残った女性のアナウンサーやタイピスト、技術者等はいたが、誰もわからないということで、声の主を特定するには至らなかった。
一見、オカルトみたいだが、後日、原爆症ですぐに亡くなった方も多くいるので、真実はどうなのかわからない。
もしかしたら、地獄の中で、少しの希望でも見出したいとする願望が、“共通無意識”として数人の耳に声となって現れたのかもしれない。また、確かに放送はされたが、悲惨な原爆被害が目の前にある中で、天使の声のごとく美化されたのかもしれない。
一方で、メディアに関わってきた著者の立場から、当時の、戦時下のメディア、特に政府の空襲警報他、防空体制がいかに不備が多いものだったかを指摘する。
広島では、エノラ・ゲイを搭載したB29が上空に現れても、空襲警報は出されなかった。もし、マトモに警報が出てたら…。
戦後、指摘を受けた軍関係者らは、警報が出ようが出まいが、被害はそれほど少なくならなかった、と即、責任逃れに終始している。
原爆が落ちる前の空襲でも、警報が遅れたり出なかったりは頻繁に起こっており、中には、管制塔の人員が、朝食を食べに外に出てたすきに…というのもあるから呆れる。
監視レーダーに関しては、欧米に特別劣るものではなかったが、横の連絡網が充分機能してなかったらしい。
いくら良い機器を揃えて準備は万全でも、いざという時、何の役にも立たない、何もできないというのは、今の日本にも十分当てはまるものだ。
脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。