【古典邦画】「君と別れて」
成瀬巳喜男監督の、1933(昭和8)年のサイレント映画「君と別れて」。YouTubeにて。
まだ20代の成瀬監督自身の脚本で、戦前のサイレント時代の代表作とされる。
芸者をする菊江には中学生の息子の義雄がいた。
義雄は母の芸者という仕事を良く思っておらずに、最近は学校にも通わずに、グレて不良グループと付き合っていた。
菊江は、義雄と仲の良かった後輩の芸者の照菊に相談する。
照菊は、不良仲間と一緒にいた義雄を誘って、汽車で自分の実家に連れて行く。
義雄は、照菊の実家で、仕事もせずに酒を飲んでばかりいて、幼い妹さえも芸者に出そうとする父親を見る。
照菊や母の菊江の気持ちを理解した義雄は、不良グループを抜けて真面目になろうとするが、照菊は妹を助けるために自ら地方へ売られて行く…という哀しい物語だ。
義雄が、中学生にしては老け顔だが、ハンチング帽を被って、ナイフを持って、夜の町に繰り出す。コレが当時の不良のスタイルなのか。
母親が夜の商売で子供がグレるってことは、今でもよく聞く例ではあるが、コレは、当時の女性の置かれた立場を示すものでもあると思う。子供が女子だったら、金のために親が平気で売った時代だったのだ。
ラストの、照菊と義雄の品川駅での別れのシーンは、義雄が大好きなんだけど、幼い妹を助けるために汽車に乗って地方へ身売りする照菊の哀しさが胸をうつ。
明治のチョコレートと袖にしのばせたみかんを、そっと義雄に差し出す照菊の優しい心遣いと可愛さが、一層、哀しみを演出している。
溝口健二監督もそうだが、成瀬監督の好んで扱うテーマの一つが女性である。時代や社会に翻弄されつつ、それでも逞しく生きて歴史を作ってきた女性たちのメロドラマだ。
脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。