【古典邦画】「日本の悲劇」

木下惠介監督の、1953(昭和28)年の作品「日本の悲劇」。

50年代の、高度経済成長期の前の混乱期に起こった一庶民の悲劇の物語だ。

当時のニュース映像も盛り込みつつ、戦後の、混乱する民主主義の定着期と価値観の変化という状況を強調している。

自己家畜化に成功した日本人は、自主的に民主主義を培った歴史がないために、民主主義といえども“押し付け”の形を取らざるを得ずに、形式的で歪なものとなってしまったのだと思う。

戦争未亡人の春子は、2人の子供を育てるために、熱海の旅館で女中として働き、時に身体を売ることもあった。
子供の成長だけが生き甲斐だったが、息子も娘も、春子の商売を快く思ってなく、反発ばかりしている。
ある日突然、医者を目指す息子は、金持ちの老夫婦の養子になると出て行く。
娘も、妻子ある英語教師と駆け落ちすることに。
子供を失ったと感じた春子は、生きる気力もなくして、列車に飛び込む…。

終戦直後、父親が死んだことで、幼い頃から極貧で、親戚などにも邪魔者扱いされて、散々、苦労してきた子供たち。時に、“汚いこと”にも手を染めて、必死に子供の面倒を見て来た春子だが、子供が成人しても度々、ちょっかいを出すために、“親の心子知らず”か、息子も娘も、春子を憎むようになる。

春子は、子供(特に息子)の成長を生き甲斐にして来たために、子供の独立を認めずに、子離れができなくなったのだ。

旅館客に、投資話を持ちかけられて、大金を失ったこともあって、子供たちは、母親である春子と縁を切ることになるのだ。

意外と子供は、親が苦労して育ててくれたことに感謝するよりも、親がやった“汚いこと”を覚えてたりするものである。

生き甲斐を失った春子は、衝動的にホームから線路に飛び込んでしまった。

娘が言う。
「私たちは貧乏で人が信用できなくなったの。貧乏も、女をすぐに騙そうとする男もホントにイヤ」。

春子に寄って来る男たちも、娘を口説く英語教師もダメ男ばかりで、徹底した不幸を描く木下監督らしいけど。

コレは一庶民の例だけど、戦後すぐの混乱する歪な社会への木下監督なりの告発だろう。


脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。