「美徳のよろめき」

よろめき婦人。

昔っから、文学ってのは姦通がテーマなのさ。やっぱり「不倫は文化」(「そういうものが世の中の歴史上にも、いろいろずっとある。そういうことを全否定したら、芸術も全否定になっちゃいますよ」by 石田純一さん)なんだよ。現代人はよろめくことに臆病になってるんじゃ。

改めて再読したけど、三島由紀夫の、縦横無尽に言葉を尽くした女の心理の描き方は凄まじいね。まだ危うい若さを感じるけど。三島の中にある“女性性”が大きかったからこそ、こんなに微に入り細に入り不倫をする女の機微が表現できたのだと思う。

28歳で、子どもがいる裕福な人妻が、昔、接吻だけを許したことのある男に偶然再会し、お互いに惹かれ合って、不倫・肉体関係に陥り、妊娠・中絶を経験して、やがて別離を決意するまで。

主人公の節子は、元来、崇高な美徳を持つ精神だけが際立った存在だけど、男と情事を繰り返す中で、二律背反、性欲に応える肉体は美徳な精神があるからこそ、とことん悪徳に堕ちていく。

そして、日常を味方に付けて諸事に対して寛容的になったり、処女のように頑なに攻撃的になったりしながら、中絶の痛みがキッカケとなって、精神と肉体の乖離に苦しみ耐えられなくなってしまう。

「節子がいて、苦痛がある。それだけで世界は充たされている」。一体、モラルとはなんぞや!(笑)

具体的な愛の行為の書き方は、いやらしい感じがしないからこそ、メッチャいやらしい。

節子は2回も中絶することになるが、当時は避妊具は使わなかったのだろうか?


脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。