「ミレナへの手紙 カフカ全集V」

「手紙を書くとは、貪欲にそれを待ちもうけている亡霊たちの前で、裸になることに他なりません。書かれたキスは至るべきところに到達せず、途中で亡霊たちに飲み尽くされてしまうのです…」。

前に抄訳で「ミレナへの手紙」は読んだが、全くもってカフカらしい、膨大な文字で埋め尽くされた(余白にもメモのように書いている)手紙を、好意を持った女性に何回も送って、しかも即、相手に返事を求めるなんざ、まさに狂気の沙汰にしか思えない。

しかも、アレコレ、微に入り細に入り、カフカの頭に浮かんで来ることを、そのまま全て書き連ねているように思える、ある種、脈絡のない文章に読めるからスゴい。読んで理解することが難しくもある。

好きなのか、好きじゃないのか、会いたいのか、会いたくないのか、カフカの暗い思考の渦の中に巻き込まれて抜け出せなくなるようだ。

当時、手紙だけが通信手段だとしても、これは明らかにやり過ぎじゃねえの。よくミレナも答えたものだ。

カフカを理解するキーワードは、やはり「不安」であるな。小説を読んでも、自分という存在が蔑ろにされて、いつの間にか、自分の処遇が運命のように決定されるというプロットが多いし、そこには、常に不安に苛まれていたカフカの不安定な心が伺える。

それが、如実に手紙にも現れているのだ。手紙にメモのように書かれた“縛られた男”の絵にも表れている。イヤ〜、疲れる手紙だ。

ミレナ・イェセンスカーは、チェコのジャーナリスト・編集者で、彼女が、カフカの小説を翻訳したいとカフカに手紙を送ったのが、2人の交際のキッカケだ。

当時、ミレナは結婚していたから不倫になるね。カフカは婚約者がいたが、ミレナとの仲が深まったことで解消してるし。

しかし、カフカの、ハッキリとさせずにミレナを惑わせるような態度に、ミレナは、夫と別れる決心がつかずに、自然消滅となっている。

2人がどのくらいの仲だったかは、カフカの手紙に、肉体関係を匂わすような記述があるから、深い仲だったのだろう。

ちなみに、ミレナは、カフカの死後、チェコの共産主義者となって、ナチスのホロコーストによって亡くなっている。


脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。