【邦画】「東京暮色」

小津安二郎監督の1957年の映画「東京暮色(ボショク)」。

小津安最後のモノクロ作品だが、小津安にしては最初から最後までメッチャ暗い。

希望もない。舞台も夜が多いし、いつもの原節子(長女)も優しく笑うのは最初だけで、その妹役の有馬稲子(次女)に至っては全編を通じて笑顔がなくて、泣いたり怒ってたり、暗い顔ばかりだ。

なにせ有馬稲子は鉄道自殺しちゃうし。最後も、後ろ髪引かれるように仕方なく歩き出すみたいな終わり方である。

いつもより間が長くて、小津安定番の構図は良いとして、ストーリーは、なんとも気が滅入る話だ。

銀行員の初老の父親(笠智衆)は、単身赴任中に妻(山田五十鈴!)に浮気されて、妻は浮気相手の子供(娘)を2人、身籠もって産んで出て行って、真実を知ったその娘達には嫌われている。
2人の娘のうち長女は夫と上手くいかずに2歳の娘を連れて父親のいる実家に帰って来ている。
次女は、知り合った学生と一夜を共してしまい妊娠、散々悩んだ挙句に堕胎、最後は酔った勢いで電車に飛び込んで死ぬ。
浮気した妻は寂しく北海道に渡り、長女は娘のために夫の元に帰る…。

とにかく有馬稲子がカワイイだけにカワイソウ。
案の定、妊娠がわかって、責任を取りたくない学生は逃げ回ってるし、学生を追いかける彼女を見てカンチガイした周りの野郎どもには「ホドホドにしとけよ、お天道様が黄色く見えるぜ」なんてからかわれるし、自分の母は本当の母なのか疑っちゃうし、電車に飛び込んだものの、「私、死にたくない…」と弱々しく嘆いて死ぬし、踏んだり蹴ったりだ。観てるコッチまでどんよりとなってしまった。

父親は、「寂しくないように気を付けて育てたつもりだが、やはり母親がいないとダメか…」と寂しくうなだれるけど、結局、次女は、母親の愛に飢えてたということか。

娘2人は父親に全てを内緒にしてたが、例え家族であっても救えないこともある、手塩にかけて育てても子供はどう転ぶのかわからないこともあるという身近な人間関係の無常感をテーマにしたのかもしれないね。

ただ、笠智衆演じる父親が、好々爺よろしく柔和な笑顔(距離を保って冷たくもあるけど)で、とりあえず話しを聞いて受け入れてる姿勢は年の功だろうか、見習いたいとも思ったね。


脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。