【洋画】「変身」

俺の大好きなフランツ・カフカの、有名な中編小説「変身(Metamorphosis )」。Amazonプライムで映画(2019年・イギリス、クリス・ワトソン監督)が観れるなんて。

これまでも何度か映画化されてるけど、これは最新版だ。

概ね、筋は原作に沿ってると思うけど、実際に、CGで羽根のないゴキブリのような毒虫が描かれていて、ネチャネチャって気持ちの悪い音を出して残飯を食うなど、ホラーみたいぢゃないか。

カフカ自身は、あえて毒虫を詳しく描写せずに寓話として表すことで、読者の想像を豊かにするという手法を使ったはずなのに。

そして、支配人や3人の下宿人、掃除婦など、イタいほど、コミカルに描かれているし。

まあ、この監督の解釈なのだろう。

毒虫になったグレゴール・ザムザの姿に、父は怒り、母はショックを受けて倒れ、妹は泣いて困惑するばかり。最初は毒虫となっても家族の一員として扱うが、徐々にただの毒虫としか見なくなる。また、家族を支えてたザムザ本人も、毒虫になった事で家族を守らなきゃいけないという責任からも逃れる事ができるが、自分という存在も危うくなってくる…。

「変身」は、いろいろと解釈はできると思うが、多分、カフカ自身が日頃感じてた、徹底した疎外感を表したものだと思う。

自分がある日突然、毒虫に成り変わって邪険にされて、挙げ句の果てには家族からでさえも見捨てられ、家族の明日の前に忘れ去られてしまう…という。僅かながら家族の明日を見出す材料になれたかな、という功績を残して。

消え入りたい、自分という存在でさえも無きものにしたいという徹底した絶望的希望なのだ。

ラスト、妹の結婚相手を探さなきゃという両親と、大きく伸びをして前を見る妹の表情には、まさに幸福と希望しか見て取れない。家族を煩わせた、毒虫となった兄グレゴール・ザムザなんて最初からいなかったように。

ザムザという存在は、あまりにも悲しいけど、日本でいえば、家族を支えた兄も毒虫に変わり、ついに家族を煩わせる存在へと変化して、今度は妹が家族の幸福と希望の象徴となっていく様、物事は常に儚く移り変わるという無常感だろうか。

やはり、この天才的不条理小説の実写化はあまり意味がなくて、コケる事になろうかと予想させるものの、カフカの徹底した負の概念を思い出して、また恐る恐る、この小説に触れてみたいと思ったから、まあ良しとする。


脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。