「ハーメルンの笛吹き男」

1284年6月26日、ドイツ・ハーメルンの町に、不思議な男が現れた。
彼は、いくらかの金を払えば、この町のネズミを駆除すると約束した。
市民たちは、ネズミの害に頭を悩ませていたので、彼に駆除をお願いした。
男は、笛を吹くと、家々からネズミが走り出て来て、彼の周りに集まった。
そこで男は、そのまま河まで行き水の中に入ると、ネズミも後に続いた。
ネズミは河で溺れて全滅した。
しかし、市民たちは、難癖を付けて、男に報酬を払わなかった。
男は激しく怒って町を去ったが、数日後に、また町に現れて、小路で笛を吹きならした。
すると、今度は、町の4歳以上の少年少女130人が集まって来た。
子供たちは男の後をついて行き、山に着くと、その男もろとも消えてしまった…。

これが「ハーメルンの笛吹き男」の話である。グリムの伝説集にも載っている。

この伝承の記録は、1300年頃に建てられた教会のステンドグラスに書かれたものが最初だという。町から130人もの子供がいなくなったのは事実らしい。ハーメルン市は今でも、集団失踪の記録として残してる。

この伝説・伝承の起源から様々な記録・史料、派生した話、モチーフ、研究等を紐解き、中世ヨーロッパの社会の実態をも明らかにし、社会と人間の関係を探った労作。読み応えのある文庫だった。

元々、日本もそうであるが、笛吹き男のような、いわゆる芸人は、ユダヤ人と同様、中世ヨーロッパ社会では、差別を受けた流浪する異人であり、ハーメルンの市民は、周囲の貴族階級と闘い、支配され、貧富の差が大きく、奴隷階級と化していた。そのため、多くの若者たちは、新たな開拓地を求めて移民することになったのだ。さらに、子供らが参加する宗教的な十字軍や舞踏行進も、頻繁に行われていた。

こんな状況が笛吹き男の伝説が形作られる背景にあったのだ。ここにハーメルンの笛吹き男伝説が作られたヒントがあるのだ。

中世ヨーロッパ社会に生きた人々の心的構造の核にあるものがわかったような気がする。


脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。