【古典邦画】「妻よ薔薇のように」

成瀬巳喜男監督の、戦前の、1935(昭和10)年のトーキー3作目「妻よ薔薇のように(二人妻)」。YouTubeにて。

東京の母親の元を去った父親が、地方で家庭を持ってて、娘が父を呼び戻そうと、そこを訪ねるが、父が幸せに暮らしているのを目の当たりにして、納得するという話だ。

当時は、お見合い結婚がほとんどだったから、後になって、やっぱり合わないということはあっただろう。こういう場合は大抵、女性が我慢してたと思うけど、映画で描かれた夫婦も同様で、母は、育ちが良いのか、全てにおいて格式ばった感じで、父はいつも気が抜けず窮屈に感じていた。母は詩人で芸術家であるのに。

それで、父は15年も前に、芸者に入れ込んで家族の元を去り、芸者の信州の実家に行ったのだった。

一人娘の君子は、かつての両親の結婚生活を決して幸せなものだとは思っていなかったけど、彼女の婚約者が、父親に会っておきたいと言ったので、信州の田舎まで出向いたのだ。

君子は、父が芸者を妾として囲っているとばかり思っていたけど、実は、父は、儲かるかどうかもわからない砂金探しばかりをやってて、そういう生活力の全くないダメな父を、芸者が内職をして助けていたということを知る。芸者の娘にまで働かせて。

さらに、東京の家に1ヶ月に1回、父から届いていたお金も、芸者が送金していたのだ。

君子はそんな父を、とりあえず東京に連れて帰るのだが、やっぱり何から何まで合わない夫婦であることを悟る。ダメな父だけど、芸者と一緒にいた方が、父は幸せなのだ。そして、父を芸者の元に戻す。

成瀬監督の映画は、男であることが罪なのでは、と思うくらいに、ダメな男ばかりが登場するのねぇ。全ての、不幸となった根本的な原因はダメ過ぎる父にあるだろう。

娘・君子の視点から父と母、芸者とその子供の心の機微がよくわかるように演出しているのは、さすがメロドラマの達人、成瀬監督の特長だろう。まだ不倫や浮気が、男の甲斐性くらいに思われていた時代のことかな?

成瀬監督は、娘役の千葉早智子とこの映画がキッカケとなって結婚したのだ。後で離婚しちゃうけど。


脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。