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良い写真とは。

 昨年より鮫川村でインスタグラム講座の講師をしています。鮫川村の魅力をインスタグラムで発信することが目的で、村の四季折々の情景をいかに魅力的に撮影できるかを学ぶ講座です。私も参加者と一緒に写真を撮って、見せ合いながらどうすればもっとよく撮れるかを学んでいます。
 この講師を受けるにあたり「何が良い写真なのか」ということを改めて考えました。講座の趣旨としては、構図の作り方や、光、色のバランス、テーマ設定など基本的な写真の撮り方について、お話しようと考えました。でもそれだけで本当に「良い写真」になるのか、疑問を感じたのです。
 構図が整っている、光が印象的、色のバランスが良い、どれも良い写真の要素であることは間違いありません。しかし、そのような写真は誰が見ても同じ印象を与え、どこかで見たことがあるようなありふれたイメージのような気がします。


 スマートフォンのカメラ機能の進化により、いつでもどこでもきれいな写真が撮れるようになりました。さらに、それなりの写真であってもアプリによって「良い写真」に加工することもできます。そのように量産された「良い写真」は一瞬見た人の気を引くかもしれませんが、深く心に残り続けることは少ないのではないでしょうか。
 私は、良い写真の要素は2つあると考えました。
1つ目は、その写真からうける印象が人それぞれ違い、また時間の経過とともに見え方が変わっていくということです。写真の歴史の中で名作と呼ばれる写真を見ると、必ずしも誰にでも受け入れられる写真ばかりではありません。良い写真と思えるものもあれば、理解しがたい写真もあります。2度、3度見てやっと腑に落ちるような写真もあります。しかし、この写真たちは時が経っても、その新鮮さが失われていません。いつでも、見た人に違う解釈を与え、受ける印象もその時々で変わってきます。



 私が仕事として撮影している写真は主にご家族の記念写真なので、理解し難い写真、ということはなかなかありませんが、後から見た時に価値が変わってくるということは多々あると感じています。現在の写真館はお客様を楽しませるエンターテイメント性が強いですが、本質としてしっかり「記録する」ことが大事だと考えています。写真というのは、撮ったその時は当たり前に今の状態が写っているだけですが、数年後見ると印象が変わって見えますよね。それは写真が変わったのではなく、時が経ち、もう戻らない時間と、その時の記憶が熟成してタイムカプセルのように蘇ってくるからでしょう。
 写真館でのカメラマンの仕事は、より鮮明に、ありのままに、その写真を残すことだと思っています。髪や肌や服の質感、瞳の輝き、それらをありのままに写すには技術が必要なのは大前提。しかし、それだけではまだ良い写真とは言えそうにありません。良い写真に必要なもう1つの要素。それは、被写体への愛情だと思います。自分にとって好きな人、物を撮った写真は、例え技術的に未熟であっても、かけがえのないものです。親が撮る子供や、家族、ペット、恋人、風景など、好きな人や物を撮影した写真からは、深い愛情が感じられます。
 写真館は家族の代わりにシャッターを押します。
技術ばかり磨いても、愛情という大切な要素を忘れては良い写真は撮れません。
家族(被写体)を想う気持ちに寄り添い、ありのままに写す技術を磨く。
そうして、「良い写真」を残したいと思っています。

福島民報 2022年10月19日 掲載

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