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ストーリーのある場所

 フラガールという映画をご存じでしょうか?
常磐ハワイアンセンター(現スパリゾートハワイアンズ)の誕生を描いた日本アカデミー賞最優秀作品賞にもなった名作です。
  ハワイアンセンター創設に携わるさまざまな人間模様やフラガールたちの成長を描いています。ロケ地は主にいわき市ですが、劇中でフラガールたちがレッスンする常磐音楽舞踊学院という建物は実は古殿町にありました。
 その場所は私が中学生の頃までは古殿中学校の寄宿舎として使用されていましたが、その役目を終えて時が経ち、映画フラガールのロケ地として採用されたようです。

 映画が公開された後もしばらくは見学希望の方を受け入れたりしていたようですが、建物の老朽化により、惜しくも解体されました。
現存する時に一度、中に入ったことがあります。年季の入った木製の廊下や階段、すりガラスから入りこむ光など、ノスタルジックな雰囲気。
職業柄、このフォトジェニックな場所で撮影してみたいと感じたことを覚えています。周囲の人たちに何かに活用できないかと話してはいましたが、実際の行動には至らず時は流れて行きました。結婚したり新しいスタジオを建てたり、私の人生も忙しくなってきて、寄宿舎のことは時々思い出したり、また忘れたり。そんな日々の中、「寄宿舎を使って撮影したい」と言い出したのは妻でした。


私の家業である吉田写真館には、2つのスタジオがあります。記念写真や証明写真でおなじみの「昔ながらの写真館」としてのスタジオと
建物内に窓や階段を作り、アンティークの小物やドライフラワーなどで装飾したセット背景のある「吉田製作所」というスタジオ。そのセットは殆ど妻が作っています。
 舞台や映像の美術を学び、テレビドラマの小道具装飾業の経験もある妻にとっても、フラガールは大好きな映画であり、寄宿舎は魅力的な建物でした。
しかし、その時初めて、寄宿舎はすでに巨大な廃棄物になっていて、数日後に取り壊されるという事実を知ります。(解体される数日前に知れたことは、本当に幸運でした)
一部だけでも残したい。並々ならぬ想いと奮闘の末、いろんな方のご協力を得て、窓や扉を譲ってもらうことが出来ました。
それらは妻の手によって吉田製作所のセットに生まれ変わり、映画の中でフラガールたちが覗いていた窓から、今は可愛い子供達が楽しそうに覗いてくれています。


 私の人生よりもずっと長い間、たくさんの中学生と生活を共にし、映画では重要な役割を果たし、解体を免れて私たちの元にやってきた窓。長い長いストーリーです。
この窓に限らず、古いものにはきっと、それぞれの歩んできたストーリーがあるのでしょう。吉田製作所には他にも、外国の汽車で使われていた扉や、フランスから来たベッド、地球儀やトランク、椅子、洋書、、いろいろな古いものがあります。
それらはとてもあたたかみがあって、緊張しているお客様をリラックスさせたり、ワクワクさせたりしてくれているように感じます。
 縁あって吉田製作所に来た古いもの達はお客様の大切な写真の名脇役となり、ここからまた新しいストーリーが始まるのです。

福島民報 2022年9月28日掲載

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