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統制するのではなく自律性を支える 『人を伸ばす力 ー内発と自律のすすめー』(2)

『人を伸ばす力 ー内発と自律のすすめー』の著者であるエドワード・デシの研究から、「外的な報酬が与えられることによって、内発的動機づけが破壊される」ことがわかった。

そして、デシ教授は内発的動機づけがなぜ「外的な報酬」(例えば金銭的報酬など)が与えられると、破壊されるかということについて考えた。そのときに挙げたキーワードが「自律」「統制」であった。

自律

人は自分の内側から湧き出す要因によって、活動するとき「内発的動機づけ」(人が生まれつきもっている活力、自発性、純粋さ、好奇心)が発揮されている。デシ教授はこの「自律性の感覚」が低くなった時に、「統制されているという感覚」に陥り、内発的動機づけを低下させるという仮設を立てた。

統制

人は、どんなときに、統制されていると感じるかというと、「報酬」「強要」「脅し」「監視」「評価」「締切の設定」「目標の押しつけ」である。

そして、上記の「統制」は本当に自律性の感覚を下げ、内発的動機づけを低下させるのだろうか。

著者のデシ教授が前回の研究で活用したパズルの実験で、マーク・レッパーをはじめとする多くの研究者たちが、統制の効果を検証した。

「競争」も内発的動機づけを奪う結果となった。

競争は人々を駆り立て、目的を「競争することへとすり替える」これによって、いつの間にか「勝利」という外的報酬によることとなり、人は「競争」によって「統制」されてしまう。

結果はどれも「内発的動機づけを下げる」結果となった。

人を統制する「報酬」「強要」「脅し」「競争」「監視」「評価」「締切の設定」「目標の押しつけ」はいずれも自律性の感覚を低下させ、内発的動機づけを破壊した。

つまり、「統制したい」がために大人はたくさんの報酬を操作し子どもたちを操作しようとするが、それは「内発的動機づけ」を殺し、「服従させる」けっかになってしまうのだ。

統制するのではなく、自律性を支える

しかし、著者のデシは単純に寛容であれば良いと述べているわけではない。

しかし、単に寛容であればいいと主張しているわけではない。目標や構造を定め、制限を設定するなどのことは、たとえ好まれないとわかっていても、学校や組織、さらには文化においてしばしば重要である。

そして、その上で「自律性を支える」ことの大切さをしたのように綴っている。

他者の自律性を支えるということは、他者を統制することの対立概念であるが、それが本当に意味していることは、他者の視点で考え、他者の立場に立って行動できるということである。

(中略)

プレッシャーを与えるのではなく、励ますことによって自律性が支えられるのだということを忘れてはならない。統制しないで励ますというスタンスは一見容易なことのように思えるかもしれないが、実は決してそうではない。自律性を支えることは、実は強制することよりも難しく、より多くの努力や技能が要求されるのである。


具体的な事例で考えよう。

マギル大学の研究で、「制限」と「創造的自律性」の両方を必要とする場面をつくった。

「子どもに絵を描いてもらう」のだ。

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絵の具を使えば、周囲を汚す可能性は高い。そうなったときに、いかに「子どもたちがしたくないことをさせるか」という難しい問題に直面する。

「統制するような制限」の場合

こちらを考えるのは簡単かもしれない

「いいこだから、道具をきちんと使いなさい」
「守らなければならないことをきちんと守りなさい。絵の具をまぜこぜにしてはいけません」

というように「プレッシャー」をかけることばをかけた。

「自律性を支えるような制限」の場合

逆に、自律性を支えるような場合は難しい。「子供の立場を尊重しているという大人側の態度が相手に伝わるように」を意識した語りかけになる。

「絵の具をこぼしたりしてあそぶことがほんとうに楽しいことはわかるんだけど、ここは他の友達も使うから、道具や部屋をきれいに使ってください」

というように、立場を尊重しつつどんな意図があるかを伝える語りかけを行った。

結果は劇的

著者の文章をそのまま引用しよう。

結果は劇的だった。われわれの研究の方向性が正しいことが示されたのである。右(本文中では上)に述べたわずかな言い回しの違いによって結果に差が生じた。

すなわち、自律性を支える条件では子どもを心理的に解放する効果が見られたの対して、統制する条件ではやる気を失わせる結果となったのである。

大人が自分を理解してくれると感じた子どもは、制限が統制的であった子どもよりももっと内発的に動機づけられ、より熱心な様子を見せたと言える。

ほんの細かい言い回し、態度によって「統制的」か「自律性を支えようとしているか」がすぐに伝わってしまう。教育者に限らず、大人は注意が特に必要そうだ。


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