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すべてのバイアスの母「確証バイアス」

あまりにありふれている「確証バイアス」

自分にとって都合の良い事例だけを取り入れる。こんな考え方をしたおぼえはないだろうか。

・「A型の人は几帳面」や、「O型の人はおおざっぱ」など、血液型で性格がだいたいわかる。
・体の調子が悪いとき、自分と同じ症状でも、軽症である根拠ばかりを探してしまう。
・雪国出身の人に「じゃあ、スキーは得意なんですよね?」と聞いたことがある。

では、私も修士論文で題材として扱い、「確証バイアス」を確かめる実験課題として扱われている「ウェイソンの2−4−6課題」を考えてみる。


ウェイソンの2−4−6課題

ウェイソンの2−4−6課題は、1960年にウェイソンが実験心理学会誌に投稿した論文で発表したものだ。

Wason, P. C. (1960). On the failure to eliminate hypotheses in a conceptual task. The Quarterly Journal of Experimental Psychology, 12, 129-140.

ウェイソンの2−4−6課題は、「2,4,6の並んだ3つの数列の裏にある『規則性』を見つけるために、あたらしい3つの数を考え出して何度か実験者に質問し、従っているかどうかをきくことで確かめ、その『規則性』を見つける」、いわば推理ゲームのようなものである。

例えば、2,4,6は当然のことながらその『規則性』に従っている。そして、被験者が3つの数を1セットあたらしく考え出して、実験者にそれが『2,4,6の背後の規則性』に「従っている」「従っていない」かを質問することができる。

さらに、被験者がその結果を受けて、3つの数を1セットあたらしく考え出し、実験者に再び『2,4,6の背後の規則性』「従っている」「従っていない」かを質問することができる。

このようにして何度も繰り返し実験者に質問をして、「自分の考える規則性」への自信が最高潮に高まった時、実験者に『2,4,6の背後の規則性』を教えてもらう、という実験課題だ。

実際には下記のサイトで試すことができる。是非試してもらいたい。








Wason(1960)'s 2-4-6 Taskでわかったこと

ウェイソンがこの2-4-6課題で『2,4,6の背後の規則性』として設定したのは、「左の数より右の数が大きい」というごくごくシンプルなものだった。


では、実際にこの課題でどんなことをWasonは示したのか。それは人が「正事例」、つまり「自分の考える規則性に当てはまる事例で試してばかりいた」ということだった。

しかし、被験者の殆どは、「2ずつ足されていく」という回答をした。

なぜか、

それは、被験者のほとんどが「4,6,8」や「88,90,92」など、「自分の考えに合致する例でばかり試した」ため、自分の思い込みを振り払えなかったのだ。


わたしたちの確証バイアス

確証バイアスとは、

「自分の考えに当てはまる事例や情報は積極的に取り入れ、当てはまらない事例・情報は無視する」

という人の傾向である。

以前に何度か紹介したことのある『その部屋の中で最も賢い人』でにおいては「すべてのバイアスの母」として紹介されており、誠にこれほど「人情」を科学的に表現したものはない。

負事例で試すことの大切さ

自分の考えが「正しいかどうか」を検証するためには、「負事例」で試すことが要求される。

例えば、「2ずつ足されていく」という仮説が正しいかを試すためには、「3ずつ足されていく」ような「1,4,7」などを試したり、「足されていかない」ような「6,4,2」なども試す必要がある。

こうしたものを試していくと、「1,4,7」はウェイソンの設定した「左の数より右の数が大きい」に合致することがわかる。

つまり、ここで「2ずつ」という仮説は打ち崩される。

さらに「6,4,2」はウェイソンの設定した「左の数より右の数が大きい」に合致しないため、「あっていない」と実験者から知らされ、「増えていく」という仮説は強められる。

このように負事例を試すことは自分の思い込みを崩す手助けになる。「負事例」を試すこと、試す可能性のある仮説を立てる必要性は、科学哲学者、カール・ポパーも言及している。彼は彼の著書「科学的発見の論理」で「反証可能性のある仮説でなければ科学ではない」とまで言っているのだ。


わたしたちは自分の信念に当てはまる例ばかりを探し求めてしまう。

確証バイアスは私達の知識をつくり、学習を支える重要な一側面であると共に、思い込み・先入観・固定観念を形成するのだ。



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