僕のペナントライフ・第3幕・Empowerment(エンパワーメント)の章〜⑫〜
僕が、メッセージアプリのグループ通話に発信を行うと、二人の友人はすぐに応答してくれた。
「ふたりとも、お疲れ。今日は時間を取ってくれてありがとう」
そう声を掛けると、学生時代からの親友たちは、画面越しに手を振って返答する。
「いや、気にするな! こっちも、コタローのことが気になってたしな……」
ヒサシは、即答したあと、もう一人の友人に問いかける。
「そりより、ユタカ! サプライズゲストって誰なんだよ?」
「ゴメン……コタローからの相談内容を話すと、どうしても自分にも話しをさせろって……」
ユタカが返答すると、画面の外から女性があらわれ、彼の肩越しから、僕とヒサシに向かって手を振る。それは、僕たちが、よく知っている相手だった。
「あっ! リノちゃん!」
「やっほー! ふたりとも、久しぶり! 元気にしてた? って、中野くんは悩みがあるんだっけ?」
「久しぶりだな〜、リノっち! そっちは、相変わらず元気そうだし、ユタカと仲が良さそうなのも何よりだ」
今回のサプライズゲストとは、僕らの大学時代の同窓生であり、その頃からユタカと交際を続けている歳内理乃さんだった。週末だからなのか、今日は、ユタカがひとり暮らしをしているマンションに来ているようだ。
ヒサシの言葉に、彼女は明るい表情で返答する。
「ありがとう〜! 中野くんが悩んでるみたいだから、気になっちゃってさ……ゴメンね、急に入って来ちゃって」
「いやいや、リノちゃんなら大歓迎だよ」
僕が、忖度なしの答えを返すと、ヒサシも同調する。
「そうだな……社会人になった女子の意見というのは、貴重だろうし……」
僕たち二人の返答に満足したのか、彼女は、笑顔でうなずきながら、ユタカの肩をパンパンと叩く。
「ほら〜、中野くんと大野くんなら、歓迎してくれるって、私の言ったとおりじゃん?」
リノちゃんの言動に渋い表情を作りながら、ユタカは、彼女に反論する。
「それでも、事前に許可や確認は取るべきだろう? 報・連・相は、業務の基本だよ」
学生時代から、少々お堅い性格だったユタカらしい返答に苦笑しつつ、僕は答える。
「ユタカ、たしかに仕事では大事なことだろうけど……僕らの間に、そういう気づかいは不要だよ」
「まあ、コタローが、そう言うなら……」
そうつぶやくユタカに、その隣に座るリノちゃんは、さらに表情をゆるめて、
「中野くん、ありがとう! 私、中野くんが、こうして、相談を持ちかけてくれたことが嬉しかったんだ」
と、語る。
(相談されたのが、嬉しいってどういうことだろう?)
そう疑問に感じたことが、表情に出たのだろうか、画面越しの僕に向かって、彼女は、これまでより少し神妙な面持ちになって、その理由を語る。
「私たち、大学の最後の年に、中野くんと貴子のことが気になってたけど、チカラになることが出来なかったじゃない? ふたりから、相談されることもなかったから、自分たちでお節介を焼くのも、どうかと思ってたんだけど、その後のことを考えると、それで良かったのかって、ずっと考えていてね……」
リノちゃんの言葉から、学生時代最後の年の切ない思い出が頭をよぎる。
ただ、大学時代に、最も仲の良かった異性の友人である江草貴子とは、今でも、たまに連絡を取り合ったりはするけれど、卒業後に交際相手ができたという彼女に対して、いまは、その関係を応援したい、という想いが強い。
それでも、プライベートなことで持ちかけた相談に、わざわざ時間を割いてくれた三人には、感謝の気持ちしかない。
「ありがとう、リノちゃん。こうして、相談にのってもらえるだけでも嬉しく思ってるから……ところで、僕は、どうしたら良いかな? これから、自分の目から見た、現状を話したいと思うんやけど……」
僕が、友人たちにそう切り出すと、予想どおり、リノちゃんが、真っ先に反応した。
「そうそう! それを聞きたかったの! 中野くんの気になってるヒトって、どんなヒトなの?」
興味津々という感じで、前のめりで話しに乗ってくる彼女のようすに、ため息をつきながらも、ユタカは、リノちゃんに同意する。
「そうだね……まずは、ミコシバさんだっけ? コタローが気にしてる女性の人となりと、コタロー自身と、どんな関係なのかを聞いておかないと、なにもアドバイスなんて出来ないしね」
いつも冷静な友人の一言に賛同するように、画面越しのヒサシも、ウンウンとうなずくので、三人が同意してくれたと解釈して、僕は、自分の感じていることを彼らに語ることにした。
※
虎太郎の話しの聞き取ったあと、一通り自分たちの考える助言を行って会話が終了すると、相談主が会話ルームから退室したのを確認して、久は、豊と理乃に声をかける。
「二人とも、今日は付き合ってくれて、ありがとうな」
その言葉に、理乃と豊が反応する。
「ありがとう、ってどういうこと?」
「どうして、ヒサシが、お礼を言うのさ?」
二人の言葉に、ヒサシが頭をかきながら応じる。
「実は、少し前にコタローんところのお母さんから、メッセージをもらっててな。『最近、元気が無いみたいだから、ウチの息子と話してあげてくれない』って頼まれてたんだよ。オレだけじゃ、コタローの相談には乗れなかったからな……」
それぞれ、四国地方とと中国地方から関西の大学に進学した久と豊は、実家から大学に通う虎太郎の家に遊びに行く機会が多く、彼の母親である涼子に手料理を振る舞ってもらうことも多かった。
虎太郎の母は、彼ら二人を自分の息子と同様に可愛がり、感染症のまん延などで移動が不自由になる中でも、なにかと息子の同級生二人のことを気にかけていた。
そんなこともあり、久と豊は、友人の母親である涼子に並々ならぬ恩義を感じていた。
「そうだったんだ……まあ、涼子さんの頼みなら、断れないよね」
友人の言葉に、豊も微笑みながらうなずく。
男子学生に戻ったような、そんな二人の姿を見ながら、
「ちょっと、男同士二人で、ナニをわかりあってるような雰囲気を出してんの? 私にもわかるように説明してよ!」
と、理乃は、彼氏の肩を揺さぶるのだった。
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