負けヒロインに花束を!第2章〜ふられたての女ほど おとしやすいものはないんだってね〜⑬
生徒会メンバーの小田先輩・長洲先輩、クラスメートの上坂部と久々知、一年生の浦風さんという同中出身のリア充たちのグループLANEのメッセージの応酬に軽い疎外感を覚えつつも、自分が企画した『オペレーション・ゾマーフェスト(和訳:夏祭り計画 ※作戦名にドイツ語を採用するのは中二病患者の典型的症例である)』が順調に盛り上がっていることに満足し、翌日、オレは意気揚々と登校したのだが……。
教室に着いた早々、そんなオレの晴れやかな気分に水を差す存在があらわれた。
いつものように、二年一組の教室に入って、自席の机にカバンを置いて、後方席のうざ絡みをしてくる男子に声を掛けられる前に、存在感を消そうと心のなかで、
(\ムッネリ〜ン/)
と、唱える。
そして、そのまま、ステルスモードで朝のショート・ホーム・ルームまでの時間をやり過ごそうとしたのだが……。
「立花クン、ちょっと良い?」
なんとも、形容しがたい笑みを浮かべながら声を掛けてきたのは、ある意味、オレにとっての天敵とも言って良い転校生だった。
「名和さん、ナニか用?」
なるべく、感情を動かすことなく、無表情で問い掛けると、名和立夏は、問い返してくる。
「えぇ、ちょっと話しがしたくて……教室の外に出られる?」
顔に貼り付いたような笑顔のまま、オレに教室から外に連れ出ることをうながしてくる彼女に対して、軽いため息をつきながら、首をタテに振ったあと、無言のまま従うことにする。
前日の大島睦月に続いて、学年の……いや、学内を見渡しても五本の指に入りそうな容姿の持ち主から立て続けに呼び出されるなんて、
(もうすぐ、十七年目になろうとするオレの人生にも初めてモテ期が来たか!)
と、調子に乗ることは当然なく、
(いったい、ナンの用なんだ……?)
と、警戒しながら名和のあとについて行くと、まるで、昨日のリプレイを見ているかのように、彼女は、校舎の隅の人気の少ない昇降階段の踊り場で、コチラを振り向いた。
「立花クン、ずい分と、コソコソ動き回っているみたいだけど……私、あなたに言わなかったっけ? 『誰かにこのことを話したら、あなたのクラスでの立場がどうなるか、良く考えてね?』って……」
「たしかに、そんなことを耳にした気もするが……オレが、動き回ってるって、なにか確証でもあるのか? 言われのない疑いを掛けられるってのは、どんな場合でも気分が良いモノじゃないからな」
「ここまで来てシラを切るなんて、あなた、思っていた以上に、ふてぶてしいわね。まず、先週あたりから、大島さんの態度がよそよそしくなったこと。もともと、この数ヶ月の間で親しく話していたわけではないけど、ここ何日かは談笑するような雰囲気がなくなったわね。もうひとつは、今度の夏祭り。コレは、あなたが小田先輩に提案したんでしょ? 大成クンから、そう聞いたわ」
「たしかに、夏祭りは、オレから先輩に声を掛けた。この前、同じメンバーで他校の演劇部の舞台を観劇したのが楽しかったからな。先輩たちや上坂部は久々知とも親しいみたいだし、『今度は、夏祭りに行きませんか?』と提案しただけだ。そして、大島の件は、あいつのアンタに対する態度がどんな風に変わったのかは知らないが……さっきも言ったように、確たる証拠もなしに関与を疑われるのは、心外だな」
「あら、そう……今回もカラオケの時みたいに、すぐに動揺してボロを出すと思ったのに、意外に打たれ強いのね。あなたのこと、ちょっと見直したかも……」
そう言った名和立夏は、可笑しそうにクスクスと笑う。
裏金問題やパワハラ問題で、表情を帰ることなくシラを切り続ける政治家が失職しないのだから、腹黒いクラスメートに対して、すっとぼけた態度を取るくらいで罪悪感は覚えないが……。
多少の後ろめたさが残る自分自身の言動をこんな風に、「ちょっと見直したかも……」と誉められるのは、どうにも居心地が悪い。
そんな感情を抱きながらも、なるべく、感情を表に出さないようにポーカー・フェイスを装っていると、目の前の相手は、「フウッ……」と、ため息をつき、オレをディスなりがら、苦笑する。
「陰キャラの空気タイプは、表情が乏しくて、感情が読めない……コミュ障のヒトって、こういう時だけは、おトクよね」
いや――――――オレが自他ともに認める、ぼっち・陰キャラ・空気系の非リア三冠王を達成しているとは言え、そこまで親しくない相手に、ここまで言われるのは、いくらなんでも、ヒド過ぎないか?
若干、涙目になりながら、それを悟られないように、
「用が済んだなら、もう行くぞ」
と断言して、踵を返して教室に戻ろうとすると、またも不敵な笑みを浮かべた名和立夏は、クスクスと笑いながら、言葉を返してくる。
「立花クン、あなたのおかげで、しばらくは退屈しなくて済みそう……今回は、事情があって夏祭りに参加できないし、あなたに花を持たせてあげるわ。もっとも……このイベントが自滅の第一歩にならなければ、イイけどね……」
その不遜な表情を横目で確認したオレは、彼女に背中を向け、無言で立ち去る。
まったく、コレだから三次元ってヤツは……。
オレは、『現実』と言う名の究極のクソゲーにため息をつきながら、最近プレイできていないPFVitaの『ナマガミ』のことを思い出し、この夏祭りが終わったら、早く日常の生活に戻ろう、と考えていた。