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ありがとう、アル・シュミットさん

レコーディング・エンジニア/プロデューサーのアル・シュミット(Al Schmitt)さんが亡くなりました。彼はこれまでに20以上のグラミーを獲得している生ける伝説のような方でした(彼の作品はこちらから)。僕が仕事をお願いしたのは2007年の夏、場所はLAのキャピタル・スタジオ。アルバムは小沼ようすけさんの「Beautiful Day」でした。

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何故か小沼ようすけさんのアルバムで唯一買えない聴けない幻の名盤

初めて会った彼はとても軽やかで気さくなオジサンという感じ。今までで一番印象的な仕事はなんですか?と聞いたら「Sam Cooke at the Copa」だと言われて、えー、それってすごい前じゃなかったっけ(1964年リリース)、そんなに長い間、第一線で活躍してるって、こりゃスーパーマンだなと感服しました。よく一緒にやっているというアシスタント・エンジニアのSteve Genewickさんに彼の年齢を尋ねたら「実は僕も知らないんだけど、たぶん、70代後半...」と聞いてビックリ!思わずコーディネーターの竹内くんと顔を見合わせました。そんな僕らを見てSteveは「彼のキャリアから推測するとそうなるんだよ...信じられないよね!」と言ってお手上げのポーズをしました。

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みんなで未知のiPhoneを興味津々に覗き込む

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お孫さんとの2ショット

発表直後で普通の人では手に入れられないiPhone(初代)を楽しそうに、自慢気に見せてくれたり、見学だよ!なんて連れてきた青年が息子かと思ったら孫だったり。朝10時にミックスチェックに行ったらいつものビシッとした格好で1分も待たずに聴かせてくれたり(オレは時差ボケでボケボケ)。ギャラのチェックを渡したら数えないんで、確認してよ、といったら「信じてるから問題ない」なんて言ってくれたり。Jazzだからバジェト、厳しいんだろ?と気をかけてくれて、TDは38/SRで1/2インチに落とすからテープ代は少し安く済むよ、とか、マスタリングはCapital StudioのRon Mcmasterが良いよ。彼とは長い付き合いだから安心だし、高くないよ、など色々提案してくれたり(Ronのマスタリングも素晴らしかった!)。こうやって当時を思い返していると出前のパスタを黙々と、でも美味しそうに食べている彼の姿が甦って懐かしく、寂しくなります。

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写真は笹路さんから預かったクラウス・オガーマンのコンピレーション盤にサインを頂いたもの。1977年のAl Shumitt&Tommy LiPuma!

アルさんの音は、プロデューサーの笹路正徳さんが俺によく言うのですが「普通に良い音」。これは誰のしわざ?とか、時代を象徴する、とかいう音ではなくて「このアルバム、凄くいいな。エンジニア、誰だろう?」でクレジット見るとAl Shcmitt。そんなエンジニアさん。いったいいくつでいつまでやるんだろうと、よく話題にしてました。

今年2月リリースのWillie Nelson「 That's Life」、昨年リリースのDiana Krall「 This Dream of You」もアルさんです。あらためて凄いな、羨ましいなって思っていたところでの訃報でした。昼間に海外のネットで目にはしたのですが、信じられなくて、俺の英語の読み間違いだろうと無視してたら夜に知人からメールが来て、やっぱり本当だったんだと。亡くなって年齢を初めて知りました。91歳!オレが今一緒に仕事とをしている笹路さんや斉藤(斉藤敬興・レコーディングエンジニア)、赤工(赤工隆・レコーディングエンジニア)もアルさんのように90過ぎまで音楽を楽しんで作っていけたら最高だろうなと思いました(赤工に言ったら苦笑いされましたが)。

たった1枚のアルバム制作でのお付き合いでしたが、教えてもらったことは数限りなく、素晴らしい経験でした。心から感謝します。寂しいです。ありがとう。Rest in Peace. 安らかに。

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