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研究成果を公開すること。

4月27日から京都文化博物館で特別展「松尾大社展 みやこの西の守護神 」が始まった。
わたしは監修及び企画委員をしており、ほぼ「言い出しっぺ」である。今回はこの展示を紹介をしたい。
松尾大社とは京都市西京区、四条通りの西のつきあたりにある古社である。701年から現在の地に鎮座しつづけ、朝廷や幕府、そして民衆から信奉されつづけてきた。いまではお酒の神様としてのイメージが強いかも知れない。

わたしは10年以上前から松尾大社へ史料調査に入らせていただき研究をしてきた。また途中からは東京大学史料編纂所の共同研究や科研で研究仲間と研究を深めてきた。日本国内には実に豊富な史資料が遺されており、そのすべてが詳らかにされている訳ではない。とりわけ、京都といった古都には松尾大社をはじめ都市京都より歴史を有する社寺もある。そのため研究者はもとより社寺の関係者であっても史資料を把握できていないこともある。無論、それらは把握されてないとしても社寺にとっては重宝であることにかわりはない。信頼を得ていきながら、長い時間をかけて調査する必要がある。

また、学部・大学院では地域の文化資産を取り上げて研究することを課している。今回の松尾大社を例に取れば、松尾大社そのものも地域の文化資産であることはいうまでもない。テーマをさらに細分化するのは可能だ。社殿やそれを維持する職人の技術、神職の方々の祭事、氏子の皆さんの想い、史資料や民俗芸能、講などなど挙げていくとキリがないくらいである。それぞれの文化資産には繋がりがあり、大きな枠組みとして文化資産である「松尾大社」がある。特に歴史ある文化資産は、古色蒼然と何も変わらない訳ではなく、今を生きる人々の想いによって維持・継承されている。こうした文化資産をどう調査・研究していくか。さらには研究する側として少しでも役に立てるように成果を発表していくか。博物館が行う展示こそ、その最たるものではないだろうか。

研究者はそれぞれの分野で研究成果を積み重ね、論文などで発表するが、目にするのは同業者や学生が主となってしまう。そのため一般書などにまとめることもあるが、成果の公開で関係者をはじめ、多くの一般の方々にわかりやすく目に触れてもらえる機会が博物館展示であり、それは当世はやりの言い方をすれば社会実装ということになるだろう。何か、商品を開発したりすることだけが社会実装ではない。地域特有の歴史や文脈を踏まえ、何か地域の課題となっているのか。そうした課題に対応するため、文化資産の意義や価値を分かりやすく伝えることが人文学における社会実装と考える。すぐれた社会実装とは、すぐれた研究成果を踏まえてこそ成り立つ。

重要文化財指定されている御神像であったり、頼朝・尊氏・信長・秀吉・家康の古文書といった目を引く文化財だけを鑑賞するだけではなく、上記のような観点を踏まえて、多くの方々に観てもらいたいと切に願う。

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