ドキュメンタリー:Get Backと僕の痛風

皆に聴かすべくプリンスDJミックスまで作り、とても楽しみにしていたイベントが10月後半にあった。でも直前に痛風に罹ってしまい、残念ながら参加できず。その後治って、今度は妻と豊橋まで鰻を食いに行こうと一泊旅行を計画した。21年の秋、冬は幾つか楽しいことが待ち受けている、はずであった。しかし豊橋旅行まで残り一週間を切った辺りで僕の膝が突如疼き始める。

映画ザ・ビートルズのGet Backはそんな時に観始めた。69年1月に解散が噂されていたビートルズのメンバー4人は、スタジオに集まってセッション、曲作りを行っている。その時の模様をカメラが克明に捉えており、その新発見のフィルムと音源をロード・オブ・ザ・リングのピータージャクソン監督がフルに使い、ビートルズ最後の映画であったLet It Beの70分を凌駕する、3部作トータル8時間弱にエクスパンドさせて、ディズニープラスより満を持してリリースされた。ファブ4のラスト・トレジャーだ。

痛み止めの優等生ロキソニンを服用しても膝の痛みが治まらなくなってきた。もうなるようになれ、と痛風では禁じ手の、揉む、というのを真夜中にやってみる。最初激痛が常に走ったのだが、3時間続けた結果、痛みが少なくなってきた気がした。疲れたのもあってか眠ることが出来た。

Get Back前半。アルバム、テレビ特番、ライブと企画が色々出てくる中、持ち寄った曲のアイデアをメンバーが、トゥイッケナムの巨大なスタジオで煮詰めていく。くだらないジョークを話さないと死んでしまうかの如く生きているジョン・レノンがいる。そして後にメンバーのそれぞれのソロに収録される曲や、聴いたことのないレノン&マッカートニーの昔の曲、カバーも断片的ながら演奏されている。凄い。プリンス好きに対して言うのなら、ペイズリー・パークのヴォルトにあったスタジオでのプリンス秘蔵映像が登場、否それ以上に心の中のプリンスさえも覗き観ることが出来るような感じだ。

これなら大丈夫、そういう状況になっていた。キャンセルにならなくて済みそう。しかしポール・マッカートニーの仕切り癖が出て来て、ジョージ・ハリソンへの上から目線的扱いするのが頻繁になる辺りから、突然ジョージが脱退すると言ってスタジオを出て行ってしまう。その不穏な動きに呼応して、僕の膝の痛みも激しさを増す。

ポール達はやり直そうとジョージとミーティングするも決裂。ジョン・レノンもラブラブのヨーコといつも一緒にいたい、それで解散になる、50年後にこんなバカな理由でビートルズは解散するって皆が認知しているんだ、ポールがそう予言して、お手上げ状況となっている。そんなどん底状態のGet Backを観ながら、僕はロキソニンを麦茶で流し込み(一日の服用限度数を超えていた時もあった)、とにかく丹念に膝を揉み続ける。豊橋旅行は12月4日。そしてホテルのキャンセル期限は12月2日、まだあと二日ある。

ポールが、ライブをするという日の翌日にニュース番組と演奏を交互に行い、番組最後にビートルズは解散と発表する、なんて言っている。しかし僕はそうならないことを知っている。結局彼らはルーフトップ(アップル・スタジオ屋上)でライブを披露することになるのだ。僕はブートレッグ、イエロードッグ・レーベルのThe Complete 2CD Rooftop Concertを持っている。正直に言えばGet Backの元となっているだろう音源を収録しているDay By Dayも(全部ではないが)。ビートルズはライブをする。そして彼らはまだ解散することはない。だから僕の膝もきっと良くなる。豊橋に行ける。鰻が食える。ビールは駄目かもしれないが。

やっぱり不安。痛風で死ぬという話は聞いたことはないけど、腎臓に負担をかけるので決して侮れないのが痛風だ。徐々に体を壊してゆっくり死んでいくのが僕の寿命だ、と。遠い未来にあるんだ、僕の死は、と。でも豊橋に行けるかどうか、そんな直近の未来一つ僕にはわからない。せめて後数日あれば、と。Get Backでもそう誰かが言っていた。

結局ジョージとは仲直り、そしてテレビ特番は中止となった。

僕の方は真夜中寝ずに何時間も膝周辺を揉みほぐす、それだけを繰り返したが、ロキソニンも無くなってきたし、明け方近くに内科へ行くことを決意、薬を調達することにした。揉んでいれば僕は大丈夫なんだと、一日以上服用していなかったロキソニンを自転車に乗るためだけに飲むと、痛みが嘘のように無くなった。これなら医者へ行ける。

クリニックから帰って昼寝をして起きたら、膝はまあまあなのだが今度は喉が痛い。そしてその夜突然悪寒がして熱が出た。怖くて計らなかったから何度かはわからない。膝が良くなる代わりに左足の甲も痛み出したので、熱冷ましにもなるからと再度ロキソニンを飲んだ。汗がドバーッて出て、気が付くと寝ていた。

朝起きた時、熱も下がっていて気分はとても良かったのだが、僕は豊橋行きを止めることを妻に告げた。

Get Back後半。ゴタゴタがありながらも関係者達はトゥイッケナムからアップル・スタジオに場所を移し、そのチェンジング・エアー一つでビートルズのメンバーも調子が良くなってきている。ライブ演奏の話も現実化しそうになっているし、撮影している映像を使って映画だって作れるだろうと話している。

よく、時間が解決する、なんて言うけど、良くなるのも悪くなるのも時間なんてそれほど作用していないように僕には思える。そのポイントは、きっかけ、だ。ならばそのきっかけって具体的に何かと言われると、運、なのかもしれない。違うかな。もっと良い言葉がありそうだ。ジョージだったら、Something、何かって言うだろう。ビリー・プレストンの参加で局面が変わったこととか、運というよりは、ビートルズの武者修行の地ハンブルクで彼と出会っていたことからの伏線回収、とした方のが僕にはしっくりくる。とにかく時間は解決してくれやしない。誤魔化しているだけだ。ロキソプロフェンNaが入っていないのに遅効性のロキソニンだと言って飲ませるようなものだ。プラシーボも立派な効果だって?否、騙されているだけである。行動しない限りグッドラックも降ってこないし、伏線も回収されることはない。ぼーっとしててもCause原因は発生しないしEffect結果にまで結びつかない。

For You Blueでのジョンの映えるスティール・ギター。アップル・スタジオで毎日プレイすることで指が良く動くようになったと話しているジョージ。僕も豊橋行きを断念してからは調子が少しずつ良くなってきた。そうなった正確な理由は知らない。医者は僕が知っている痛風の知識、食事療法を促しただけだったし。ジョン曰く、その理由はカリフラワー、もしくはザクロ、とどのつまりSomethingだ。体重を4キロ以上減らしダイエットしているのに尿酸値だけは依然7.9と減りが鈍い、その理由と同じく、なぜだか全くわからない。でも肝臓の値とガンマGTPは正直だよね。酒を呑めば呑んだ分だけ上がるし、呑まなければ確実に下がるんだから。

ビートルズ解散の真相、この映像の中にそれはある、とも言えるし、ないとも言える。皆が色々喋ってくれているけど彼らの心の中まで覗けはしないからだ。観ている側は多くの情報から必要十分に分かったような気になれるとしても。真相だ、と本人の口からそう言われてもそれと裏腹なことを考えている、というのがちらちら感じられてしまう。知れば知る程わからなくなる。でも皆が皆、とにかく良くなろう、良くしようとしているのだけは分かる。誰も悪くないのだ。こんなに仲が良かったのに解散、その運命。フォース。導き。自由。

ピアノは凄い。今まで書かれた音楽がここにあるんだから。
ポール・マッカートニー

人間だってピアノ位凄いって、今の今ならそう思える。凄過ぎるよ、特にオフビートな自律神経って奴は。日頃の行いがそいつを上手く働かせるようにするんだろうけど、そのCauseとEffect、知りたいけど知るべきことではない。知る必要はない。僕としては痛くなければそれで良いわけで。適当にスキッフル。

自律神経の仕組みみたいなのをDig it(好き、理解するの意)出来た気になれる、Get Backはそんな映画だ。8時間弱の映像を軽い気持ちで何度も観たい。痛風の時もそうでない時もいつでもどこでもビートルズの最後のライブを観る。I've got a feeling。

豊橋旅行当日に原稿をアップ出来る喜び。そして今夜呑む手筈の僕のイギリス留学仲間に、この原稿を捧げる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?