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海外高度人材活用のススメ〜vol.2 雇用形態編〜

前回の採用編に続いて、今回は雇用形態編です。
海外人材を雇用する際に、どのような雇用形態があり、どのようなことを検討すべきかという点について、私の経験をもとにご説明したいと思います。
なお、当社はIT企業であり、あくまでソフトウェア開発やデザイン、マーケティング領域における一事例としてお読みいただければ幸いです。

海外高度人材の雇用形態は、まず居住地がどこかによって大きく以下の二つに分かれます。メリット・デメリットやそれぞれの注意点について見ていきたいと思います。

  1. 「日本で働いてもらう」

  2. 「海外で働いてもらう」

日本で働いてもらう

既に日本にいる外国人を採用する場合、本人も日本での生活に慣れているため、ある程度物事はスムーズに運びますが、海外にいる人材を日本に呼び寄せる場合、VISAの取得手続き、住居の手配、各種行政手続き(住民登録・銀行口座開設、携帯電話やクレジットカードの契約手続き)など、公私両面にわたるサポートが求められます。家族を同伴して来日される場合は、ご家族のVISA取得、日本語学習やお子様の学校・保育園の手配などまで配慮が必要になることも。これらを会社でどこまでサポートしてあげるかは会社次第ですが、高度人材に高いパフォーマンスを発揮してもらうため、まずは生活面の不安を取り払ってあげることも大事な観点です。
給料では欧米に見劣りするものの、日本の治安の良さ、アニメや食文化、整ったインフラに魅力を感じて日本を選択される外国の方も多くおられます。公私にわたる手厚いサポートを提供することで、高度人材に選んでもらえる会社になることもできるでしょう。

VISA回りのお話

海外高度人材の場合、技術・人文知識・国際業務という在留資格(略して技人国)を取得するケースがほとんどです。行政書士に手続きを依頼することも自社で実施することも可能です。いずれにしても会社の決算書や法定調書など、会社側の書類も諸々提出しなければならず、日本人を採用する場合に比べ、かなり手間が掛かります。
在留資格も取得して終わりではなく、在留期限や更新スケジュールなども会社側できちんと管理しておく必要があります。そのため、来日したらまず在留カードの写しを会社に提出してもらい、在留カード番号や在留期限を台帳で管理しましょう。(当社は人事労務freeeの従業員情報に入力・管理しています。)
会社側で把握しておかないと、期限過ぎて本人から「ねえ、これ期限過ぎてるけど大丈夫?」なんて聞いてくることも。。。VISA更新は、少なくとも1か月前から余裕をもって進めましょう。

また、外国人留学生にアルバイトをしてもらうケースも要注意。在留資格「留学」の場合、週28時間以内までしか資格外活動(就労)が認められていません。在留カードを確認し、資格外活動許可の有無が「有」になっているか、他のアルバイト先も含め週28時間以内という就労時間が守られているか、この辺りも企業側で把握しなければなりません。

雇っていた外国人が他の会社に転職した場合も、本人が14日以内に出入国在留管理庁に「所属(契約)機関に関する届け出」を提出する必要があります。

「そんなの本人の問題でしょ。知らんがな」で済まされればよいですが、それでは済みません。厚生労働省のリーフレットにも記載されていますが、外国人を雇用する事業主は、不法就労防止のためそれ相応の努力が求められます。外国人はこういった手続きの存在自体を知らないことも多いので、会社側が退職時に必要手続きを書面で通知してあげるのもよいでしょう。事業主の責務をおろそかにし、いい加減なことをやっている会社と認定されてしまうと、今後のVISA取得にも支障が生じかねません。

同一労働同一賃金

外国人だからと言って賃金を日本人よりも不当に下げていいのか。そんなわけがありません。日本国内で採用する時点で当然、同一労働同一賃金の原則は外国人にも適用されます。VISA取得の要件でも、同一職種において日本人と同等の賃金水準かという点はチェックされます。

「そこまで苦労して日本で外国人を採用する必要あるの?」と思われるかもしれません。あるんです。

そもそも当社ようなIT分野の中小企業の場合、大手と比較すると、あらゆる面で待遇が見劣りします(と明言するのもどうかという感じですが、事実なので仕方がありません)。当社は、AIや機械学習、IoTといった最新の技術分野に取り組んでいるため、日本人を採用するのはかなり困難です。一方、海外・国内の大学・大学院を修了し、日本で就職したいけど、日本語が話せないため就職機会が得られない海外人材が数多くいます。つまり、圧倒的な買い手市場なわけです。当社は日本語能力不問で海外人材を採用しているため、日本人のみを対象にするよりも豊富な人材プールの中から採用活動を実現できています。AIやコンピュータサイエンス分野は最新の技術動向が英語文献でしか入手できないことも多いため、この点においても海外人材を採用することが有利に働きます。
また海外の現地ではなく、わざわざ日本に呼び寄せるという点についてはどうでしょうか。当社では現地で働いてもらう人材、日本で働いてもらう人材、両方在籍しています。やはり日本に来てもらうほうが、どうしても距離が近い分、対面でコミュニケーションが取りやすいのは事実です。日本に来て日本の文化やワークスタイルに慣れ親しんでもらい、プライベートでも交流できるという良さもあります。

日本で採用するメリット・デメリット

さて、日本で採用するメリット・デメリットについてまとめます。

メリット

  • オフィスで対面でのコミュニケーションが取りやすい。

  • プライベートでの交流もしやすく、会社へのエンゲージメントが高まる。

デメリット

  • 公私両面にわたるサポートが必要で、企業側の管理コストが高い。

  • (現地の賃金水準のほうが低い場合)日本の賃金水準と同等になる。

海外で働いてもらう

続いて海外の現地で働いてもらう場合の雇用形態について、見ていきましょう。以下の4パターンが考えられるかと思います。

  • 社員として採用する。

  • フリーランスとして業務委託する。

  • 雇用代行(EOR)サービスを活用して採用する。

  • 現地法人を設立して現地法人で採用する。

社員として採用する。

このあとの業務委託とも通じる話ですが、海外の人材を現地雇用する場合、税金や社会保険の問題が複雑に絡みます。日本の税法や労働法令、相手国の税法や労働法令、そして日本と相手国の二国間の租税条約や社会保障協定、これらの関係法令にきちんと目配りし、税務や社会保険実務、雇用管理を適切に行う必要があります。
所得税に関して言えば、「居住者・非居住者の判定」や183日ルール、国内源泉所得と国外源泉所得の違いやその範囲について正しく理解し、課税関係を整理したうえで慎重に進めなければなりません。
詳しくは国際税務・法務に詳しい税理士や弁護士、社会保険労務士に相談すべき内容のため、ここでの深入りは避けます。ただ一つ言えるのは、安易に考えて処理してしまうと、足元をすくわれかねないということです。

フリーランスとして業務委託する。

業務委託も同様です。税務に関して詳述は避けますが、非居住者に業務委託をする場合、支払った報酬が日本の国内源泉所得に該当し、源泉徴収の必要性が生じるリスクがあります。(以下のページをご参考ください。)

ただ業務委託しているだけだからと言って雇用管理を怠ると、気づかぬうちに現地国の労働法令に違反してしまったり、当人が現地での税務申告を行っていないケースなども起こり得ます。当人の問題だからあずかり知らないというスタンスでは会社のコンプライアンス問題に発展しかねません。
海外人材を雇用/業務委託する企業の人事労務担当者は、日本と相手国、それぞれの関係法令に通じておく必要があります。

雇用か業務委託か、いずれを選択するにしても自社で直接契約する場合、税務や人事労務が煩雑化するのは避けがたいでしょう。そこで選択肢に上がってくるのが次にご紹介する雇用代行(EOR)サービスです。

雇用代行(EOR)サービスを活用して採用する。

雇用代行(EOR)サービスというものをご存じでしょうか。
EORとはEmployer of Recordの略で、現地法人を有するEORサービスが自社に代わって海外人材の雇用を代行し、入退社や給与の支払い、税金、社会保険、労働保険の手続き等をまるっとすべて行ってくれるサービスです。企業側は海外人材の給与・法定福利費に加えてEORサービスの利用料を支払う必要がありますが、このサービスを活用することで現地のコンプライアンスに準拠し、人材採用・雇用管理プロセスを一元的に行うことができます。
EORサービスの提供企業としてDeelGoGlobalOntopなどが挙げられます。それぞれカバーしている国や地域が異なりますが、最大手の米・Deelは150か国以上での雇用実績を有しています。
当社もこのDeelのプラットフォームを活用し、日本企業にEORサービスの活用を推進するサービス「Expanja Works」を提供しております。

海外進出を検討している企業にとって、いきなり現地法人を設立するよりもリスクを低減化し、スピーディに海外人材の採用を実現できるため、有効な選択肢の一つになり得るのではないでしょうか。

現地法人を設立して現地法人で採用する。

最後に現地法人を設立して現地で採用するというパターンも確認しておきます。
これは海外進出の対象国が決まり、綿密な現地調査やヒアリングを行ったうえで進めていく形になるかと思います。国によっては外国企業の現地法人設立に対する外資規制や業種規制が厳しく、設立までにかなりの時間と費用を要することとなります。たとえばインドネシアでは外国資本の場合、製造業・非製造業の区別なく、100億ルピア以上の払込資本が必要です。役員に現地の居住者が何パーセント以上入っていないといけないといった国もあり、その場合は現地で信頼できる人材を見つけなければなりません。

そのため、対象国の法制度・商習慣・ノウハウに通じた専門家・コーディネーターに相談し、中長期的に腰を据えて取り組んでいく覚悟が必要となるでしょう。

海外で採用するメリット・デメリット

日本で採用する場合と比較したときのメリット・デメリットについてもまとめておきます。

メリット

  • (現地の賃金水準のほうが低い場合)日本よりも安い賃金水準で人材採用ができる。

  • 東南アジアやアフリカなど若年層人口の多い地域では、若手の人材を採用しやすい。

  • インフラ監視業務など24時間対応が必要な場合、対象国によっては時差を活用した組織体制の構築が可能

デメリット

  • 雇用形態によっては税金や社会保険の手続きがかなり煩雑

  • リモート勤務で、かつ時差が大きい場合、コミュニケーションコストが増大する。

  • 現地通貨ベースで契約した場合、企業側が為替変動リスクを負うことになる。

まとめ

以上、海外高度人材を採用する際の雇用形態について、「日本で働いてもらう場合」と「海外で働いてもらう場合」に分けて見てきました。
中でも海外で働いてもらう場合、日本法人が直接当人と契約を行うことにはさまざまな税務・法務リスクが伴います。とは言え、いきなり現地法人を設立するのはハードルが高いーそんなときはまずEORサービスの活用を検討されてはいかがでしょうか。
株式会社eftaxでは、Deelのプラットフォームを活用し、海外人材の採用からオンボーディング、マネジメントまでバイリンガル人材がサポートするサービス「Expanja Works」を提供しています。海外高度人材の活用に一歩踏み出してみたいとお考えの企業様はぜひ下記サイトよりお問い合わせください。

次回は日本に呼び寄せた海外人材の生活サポート全般についてまとめた「居住支援編」を書く予定です。


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