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ついついクリックしてしまう人必見!平安時代におけるだましのテクニックとは!?

巻二十九第二十一話 紀伊国の晴澄、盗人に値ふ語 ima訳「今昔物語」 29-21


 今も昔も、油断したつもりはない時に、人は油断してしまうものであります。


 角を曲がる時さりげなく確認したが、間違いなく先ほどの男が尾けてきている。晴澄はるずみ※1は弓に弦を張り、郎等にも弓矢をもたせ、防備を固めた。久しぶりの京都だが、命を狙われる理由が両の手では数えられないほど思いついていけない。襲われる前に、襲われないように立ち振る舞うのが賢明だと判断した。

 用事も済み、夜更けの町を南へ下る途中、
「□□様の御なぁりぃ〜」
「道をあけよ。道をあけよぉ」
 下京辺りでにぎやかに先払い※1して馬に乗り連ねた公達きんだちの一行に出会った。
 晴澄は馬から下りて平伏した。
「弓の弦を外して平伏しておれ」
 と言うので、皆、あわてて弓の弦を外し、額を土につけて平伏した。
 通り過ぎられたか、と思った時、首の後ろを押さえられ、そのまま地面に押しつぶされた。
「何をッ」
 水干の襟首を締め上げられ、最後まで言葉にならない。動こうとしたが、上に覆いかぶさった男に腕を極められ、全体重を胸に乗せられ、ピクリとも動けない。見ると、郎等どもみな取り押さえられている。
「これはまた、何をしようとするのか」と思って、眼だけを動かして見上げてみると、目の前にきりきりと引き絞っった矢じりが突きつけられている。
「お前ら、少しでも動けば射殺すぞ」
 さっきまでの陽気な先払いの声とは打って変わって、静かな、面白くもなさそうな声である。
 何と、公達などではなく、強盗が化けていたのであった。
 それに気づいたが、実に悔しく情けないこと限りなし。少しでも身動きしようものならば射殺されそうなので、ただ、打ち転がされたり引き起こされたりしていた。
 盗賊たちの思いのままに、一人残らず着物をみな剥ぎ取られた。弓も胡録やなぐい※2も馬も鞍も太刀も刀も、履物に至るまでことごとく奪い取られてしまった。
「油断さえしていなければ、どんな盗賊であれ、おれにこんなはずかしめができるのは、おれを殺した上、死体に対してのことだ。少しでも動くことができれば、力の限り戦って捕らえることも出来たろうに。それを、大声で先払いしてきたので、かしこまって平伏してしまったので、このような目に遭わされてもどうすることも出来ぬ。これは、わしが武士としての運がないための結果だ」
 晴澄はこう言って、これから後は、一人前の武士らしい振舞いを止め、人の従者として勤めるようになった。


※1 紀伊の国の伊都郡、坂上晴澄さかのうえのはるずみ。「今昔物語」では武の道にかけては極めて隙のない男として紹介される。前司(前任の国司)平惟時朝臣たいらのこれときのあそんの郎等。
※2 矢を入れる道具。

【権力を笠に着る】

 平安時代も,だましのテクニックは「権力があるかのようにふるまう」行為なのですね。えらい人だと思ってしまうとついつい思考停止に陥ってしまう庶民根性の中にも,ちょっと待てよと診断するふてぶてしさも大事です。


【参考文献】

新編日本古典文学全集『今昔物語集 ④』(小学館)

原文はこちら

この話を原文に忠実に現代語訳したものはこちら
https://note.com/tomo_plus/