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「ナビレラ」~夢芽吹くとき

先日、ミュージカル「ナビレラ」を鑑賞しました。

韓国のWEB漫画原作・現地でミュージカル化されたものが、今回日本人キャストで上演。将来に絶望を感じている、スランプ中の青年バレエダンサーと、幼い頃の夢を叶えるべくバレエ教室に足を踏み入れた老人の交流を描いた話です。

Netfrixで1話だけ見て、「ほのぼの系で最後はおじいちゃんがバレエ踊る姿に涙するヤツ」と高をくくっていたら、ひと昔前のドラマ並みに設定盛り盛りで何度劇中に「はい!?」と思ったことか…このような設定にややツッコミどころはあるものの、スタッフ・キャストの丁寧な舞台作りを感じられ、総じて好印象でした。

この舞台に行こうかなと思ったのは、バレエ実力者の三浦さんがバレエダンサーの役を演じるから。略歴だけ見ると「なんでミュージカル来たの!?」と思うくらい、すごいじゃないですか。もし生まれが違っていたらビリー・エリオットやってたかもしれないし、もっと前の上演なら大貫さんが演じてたかなと思います。
私はバレエやるのも見るのも、ちょっと齧った程度の初心者ですが、幕開きの三浦さんの踊りには鳥肌が立ちましたね。自転車降りてスタジオ入った直後に踊るなんて、普通ありえないけど(笑)でも彼のジュテ・アン・トゥールナン(かな?)からのジャンプ、複数回転のピルエットにはそんなツッコミをかき消すくらいの威力。重力を全く感じさせない軽やかさと跳躍の高さには、一瞬で魅了されてしまいました。

主人公チェロクは消極的な性格に加え、将来に対する諦念を抱えているため、表面的な台詞や態度だけでは表現不足となる役どころ。三浦さんは1つ1つのシーンで他者との関わりの上で主人公が変化していく様を積み上げていくので、2幕後半の笑顔が本当に気持ちいいし、楽屋で説得する姿にまっすぐな気持ちが感じられる。客席あちこちでその必死さにすすり泣きがこぼれていました。

川平さんのドクチュルも、これまた難役。登場人物の中でドクチュルが一番達観しているようで、一番将来に不安を感じているから、現実に見て見ぬ振りをしている。そんな姿に愛おしさを感じるからこそ、なりたくない姿になってしまった時、我々にも大きな衝撃を与える。現実はあんな急に進行しないと思いますが、客席の多くが「自分がもしこうなったら・・?」と考えたことはあるはず。でも夢に込める想いの強さから、可哀想!とは感じさせないのですよね。悲痛な姿だけど、こちらが悲惨を彼に押し付けるのはどこか違う気がして。例え自我を失ってしまったとしても、過去に感じた強い想いはその人から消えないのではないか。そう感じさせる、力強いドクチュルでした。

その他のキャストも好演技。
中でも狩野英孝さんのコメディは良かったです。多くの場合、本人のキャラを劇中に入れると無理矢理感が否めないのですが、彼の場合は自然な流れの中で絶妙な塩梅で見せてくれたので、物語を邪魔しませんでした。バランス感覚がいいのでしょうね。

黒や暗さを感じさせる背景が、ラストでは桜が咲き乱れる春の空に。人々の夢が大きく芽吹いた様に温かな気持ちになった終わり方でした。

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