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#1日3アルバム開拓 2023/7/11


38.On My Ones - Alfa Mist

 イギリスのコンポーザー、ピアニスト。彼もまた、UKジャズ界隈の人物であり、ヒップホップとの接近が特徴と聞いていたが、本作『On My Ones』に関してはストレートにピアノのみで奏でられるアルバムだった。
 『L4』では滑らかなリフの中で、タッチの強弱で生まれるうねりが心地よい。最小限のレイヤー数でありながら、それぞれが柔らかく有機的に変化しながら、展開を生んでいく。グルーヴと呼ぶには繊細なそれが醸し出す各音の風合いの違いが、シンプルながらも奥行きを与える。
 『Newham Village』では改めて、ピアノという楽器の音域としてのレンジの広さ、そしてダイナミックレンジの広さの自由度を思い知らされる。『Amigo』では、むしろ音符がない瞬間にビートが感じられる。音数以上にドライブしていくのがわかる。音としては記録されていなくとも、確かにプレイヤーとリスナーの間に共有されているビートがあり、それを我々は感じ取り、聴きとっている。
 余白によって、ここまで強靭なビートをあぶりだすことができるとは。ピアノはほんとうに描くことのできるビートの自由度が高い。ピアノそのもののプレイは、むしろ音数を抑えたシンプルなモノでありながら、熱量がこもっている。体を揺らしたくなる。これも、彼がヒップホップへの造詣が深い事に起因しているのだろうか。

39.Spaven × Sandunes - Richard Spaven, Sandunes

 Richard Spavenはイギリスのドラマーで、かれこれ10年近く前から新世代ドラマーとして名前が挙がっている人物。昨今のクラブサウンドなどを交えて進化したUKジャズの盛り上がりの先陣を切ったと評されることもある。Sandunesはインド出身の女性ピアニストでこちらもワールドワイドに活躍している人物らしい。そんな二人のコラボアルバム。
 『In Readiness』では、くすんだシンセリードとエレクトリックなドラムで幕が開いたと思いきや、少しずつアコースティックなドラムにトランジションしていくユニークな構成。加工されたRhodesとショートディレイのテクスチャが心地よい。
 『Tree of Life』の人力ドラムンベースにRichard Spavenのテクニックに対する矜持のようなものを感じる。シンプルにドラムのショーとしての面白さがある。演奏というより、一つのショー。
 全体通して、エレクトリックなサウンドとアコースティックなドラム、そしてループによるミニマルさと有機的なパターンの展開のバランスが見事。扱われる音のアプローチも多彩で興味深い。『Evelyn』のSandunesのピアノを始めとしてディレイやフレーズそのものにどことなくRei Harakamiを彷彿とさせる要素がある。死後10年以上たっているが、まだまだ影響があることを知る。最終的なサウンドそのものはもちろん異なるものだが。
 『Sustain』を始めとして、印象的にピアノが取り入れられている楽曲はあるものの、Sundunes本人のアルバムを聴いてみないと、この方についてはあまりわからない。しかし、それくらい裏方というかトッピングに徹している。あくまで、Richard Spavenのドラムとサウンドを堪能するようなアルバムに感じた。

40.To Be Determined - The Main Squeeze

 アメリカインディアナ州拠点のファンクバンド。昨今のタイトなサウンド、もしくはVulfpeck的なLo-fiな方向でもなく、ナチュラルな膨らみをもった明るいサウンドに多幸感が満ち溢れている。聴いた瞬間からこちらの心を解かせるようなサウンド。澄ました顔してテクニックを見せるのではなく、それぞれのプレイヤーの笑顔が見える。
 Corey Fryeの滑らかな声色はいつまでも聴いていたくなる。古今東西のファンクを取りこみ、それを完全になじませている。『Make It Right』はディスコ的な要素も感じつつ、こちらを躍らせたかと思うと『Hold My Hand』や『Grape Jelly』ではソウルフルな歌声を届ける。
 少し懐かしささえ感じる『Sunday Morning』で優しくこちらを包み込む。この楽曲の後に『Go to Work』を入れるようなユーモアも持ち合わせている。トレンドに迎合するのではなく、自らが奏でたい音を楽しんで奏でていることが素敵。圧倒的な実力を伴った、パワフルなセッションこそ正義。

41.Signpost Of Light - cetow

 京都のインストポストロックバンドcetow。Websiteの更新が完全に止まっており情報を探すのに苦労した。とにかく、さわやかで吹き抜けるようなギターサウンドが夏にぴったり。展開の複雑さで引き付けてくるというより、心地よく耳を刺激してくるシンプルさが魅力的。
 なかなか言語化しにくいが、これぞジャパニーズインストという印象がある。意外とこの手のバンドをまだ海外で見つけられていない。似た編成のバンドというか、海外のギタリストのソロプロジェクトとかに似た傾向を感じることもあるが、やはり決定的に纏う雰囲気や構成しているフレーズが違う。こうしたバンドが出てくるのはやはり、toeがいてSPECIAL OTHERSがいてLITEがいてmouse on the keysがいて、という国だからなのかもしれない。お国柄って、先人たちのやった音楽で決まる感じがある。
 ツインギターの緻密な掛け合い、タイトなドラム。ガチっとしたアンサンブル。こういうの大好きな人なので、もう何も言う事がない。機会があればぜひとも観に行きたい。
 完全な余談だが、先日toconoma石橋光太郎氏があげていたnoteの話が非常に興味深かった。みんな、インストするんや!!!


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