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#1日3アルバム開拓 2023/7/9

31. On Writing(2022 Remasterd) - Barrier Reef

 仙台を拠点に活動インストゥルメンタルバンド。まさに、来週7/14に新作アルバムがリリースとのことで、いま聴かずしていつ聴くというバンド。さっきサイトを見たら、どうやらPatreonでファンクラブを運営しているよう。月額5ドル払えば、パラデータやTAB譜を落とせたりするようで、なかなかユニーク。
 楽曲の傾向としてLITE等の影響を強くを感じる一方、よりクリーンなサウンドが印象的。また、楽曲の展開も複雑にし過ぎないことで、各プレイヤーのフレーズが引き立ち、よりクリアに演奏を味わえる。リフを積んでいくことによって盛り上げていくロジックと、プレイを展開していくことで盛り上げるロジックのどちらもが働いている。『Telescope』とかはまさにそう。
 どの曲も、演奏が非常にタイトで本当に雑味がない。人の演奏による熱量をしっかり残した上で、もはや冷たさを感じるほど正確。TAB譜の配布はおそらくカバーしてもらうことで楽曲を広めようということなんだと思われるが、緻密さがこれだけ肝になっているバンド、本気でカバーするなら相当テクニックを要求される。あとはきっかけさえあれば、大人気バンドになること間違いないでしょう…。

32.Utena Kobayashi - 6roads

 小林うてな氏と言えば、蓮沼執太フィルのスティールパンのイメージが強く、ソロ作品を聴くのは初めて。不穏でありながらも美しく、力強くも儚さや繊細さを感じる。アンビエントでエレクトロ。
 タブラや、締め太鼓的なものの硬質なパーカッションによって流れが見えつつも、靄がかかったようなサウンドは、ある種、リスナーの精神の深いところにあるような「不安」のようなものを刺激し、あぶりだす。描かれる音の空間は非常に広大であるが、むしろ広大すぎて、孤独のようなものを強く感じる。
 ある程度生感がありつつも、加工のプロセスを経たことで、ある種人間的な温かみが抜け落ち、無機質さが際立つ。けたたましくなるドラムは、必ずしも居心地が良いものではない。むしろ、聴いていることで精神がかき乱されるような感覚さえあり、愉快ではない。しかし、不思議と目が離せない。
 ご本人が掲げる「希望のある受難・笑いながら泣く」というテーマまさにその通りだと感じた。

33.GoGo Penguin - GoGo Penguin

 GoGo Penguin。イギリスのピアノトリオ。アコースティックな編成ではあるものの、見せ方というか曲の建付けはエレクトロ。さながらクラブでDJ
DJがパートを抜き差しつつ、フレーズを変化させていくような展開がされる。全体的に、ミニマルなフレーズが多いのが印象的。しかし、展開のバリエーションが豊富で退屈することはなかった。
 『Signal In The Noise』では、打鍵の強さを細かくコントロールしつつ、一定周期で同じ鍵盤を打鍵することでさながらディレイをかけているかのように聴かせたり、ダブステップのパターンをドラムが叩いたり、ユニークなサウンド。単に演奏を重ねるだけではなく、ポスプロ段階における積極的な音作りが効いている。シンプルなフレーズでもリバーブ一つで展開していったりするのが興味深い。『F Maj Pixie』とかは、パターンとしてのピアノとウワモノとしてのピアノの絡みが面白い。『To The Nth』も同じく、リフとウワモノ的な印象があるが、そのほかストリングスがレイヤーされたり、より複層的に各パートが絡み合う事、そしてズレる事によって曲の熱量が変化していく。高音に特徴のあるリバーブだからか、上向きに音が散って煌びやか。アンビエント的な要素も感じる。
 クラブで聴きたい。サウンドとしては全く違うが、SPECIAL OTHERSの『Laurentech』で皆がトランスしていく様子を思い出した。音楽に酔わされ、巻き込まれていくような中毒性と快楽がある。 

34.Beautiful Vinyl Hunter - Ashley Henry

 Ashley Henryという南ロンドン出身のピアニストのアルバム。セッションベースでプレイヤー同士のコミュニケーションが見えるジャズ色が強い楽曲から、ラッパーをフィーチャーした楽曲まで。一つのアルバムの中でもきわめて多彩なアプローチの楽曲が収録されておりカラフル。様々なプレイヤーを客演として呼ぶことによる面白さがふんだんに出ている。そして、それを止めあげるAshley氏の手腕を感じさせる。
 『Between the Lines』では、Sparkzのラップと、Keyon Harroldのトランペットが都会的。『Introspection』でフィーチャーされているTheo Crokerのプレイとはまた違う。『I Still Believe』のMillton Suggsのソウルフルなボーカルと、厚みがありつつも穏やかなコーラス、そしてフィーチャーされたストリングスとのブレンド感も心地よい。もちろん『Crane(In the Sky)』等、Ashley氏のピアノが堪能できるインストゥルメンタル楽曲も数多く、ピアニストとしての一面も堪能できる。『Pressure - Insturumental』や『Battle』には近年のDomi & JD Beckを始めとした流れにつながる要素も感じ取れる。各楽曲における、ピアノの立ち位置、そして繰り広げられる音楽の色合いに合わせたタッチの変化に、Ashley氏の真面目さのようなものがにじみ出ている。
 口ずさめるほどメロディアスなメロディーラインから、ろっ骨を揺さぶるような重みのあるビートまで。しかし、一つ一つの楽曲のカラーは驚くほど違うのに、不思議と一枚通しての一体感はある。聴きやすさとのバランスを取りつつも、しっかりジャズをしている。
 ものすごく単純な話だが、全体としてハーモニーが明るい楽曲が多いことも聴いたときの心地よさや楽しさに直結している。『Sunrise』のドラム、パーカッション、ベース、ピアノというシンプルな構成ゆえに引き立つ、多幸感あふれるサウンドに思わずニヤニヤしてしまった。後半に向けて、もう一段テンションを上げてくれる。『THE MIGHTY』のハイブリッドなサウンドもめちゃくちゃ好き。


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