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Vulfpeck全部聴く(Vulfpeck名義編 #1)

はじめに

 そういえばやってなかった「Vulfpeck全部聴く」。私が、Vulfpeckに初めて触れて一年ほどが経つ。『Thrill of the Arts』以降の作品はつまみ食いしていたが、アルバムごとに通しで聴くのは初めてである。昨年末に『Schvitz』という新作も出たので、この機会に「全部聴く」企画をやってみる。
 「評論」と書くと、一部の「理論派」ファンに文句を言われそうで面倒くさいので、あくまで感想文という体で出す。せっかく聴くなら文章にしておこう、くらいのテンションである。

1. 『Mit Peck』

 全曲初めて聴く。全体として、あくまでセッションの延長線で制作されている、ということがものすごく伝わってくる。音質も、積極的に整理するというより、録ったままのスタジオの空気感を色濃く残した仕上がり。近年の作品でもしばしば聞こえるVulfpeck頻出コード進行も早速出ていて、「Vulfpeckらしさ」のようなものの片鱗はもうすでに感じる。
 先日、DOMi&JD BECKの「いかに手癖から逃れて音楽を作っていくか」という内容のインタビュー記事があがっていたが、

そこに引き付けてこのアルバムを書くならば、真逆の「手癖の塊」。
 しかし、これは全くネガティブな意味ではない。十年以上前のアルバムなのに、古さを感じない。現在まで通ずる、揺らぎようのない、Vulfpeckの基礎のようなものが、すでに完成している印象を受けた。
 ただ、全体としての単調さは否めない。一曲の長さも4分オーバーが多く、そうしたところから冗長に聴こえることも多い。
 私は、ある程度、Vulfpeckがこういうテンションのバンドだと理解しているし、すでにVulfpeckが好きだから退屈せずに聴けたが、全くの初見で聴いていたらおそらく途中で離脱している。今聴いたから、多少わかるアルバム。最新作からここに戻ると、いかにも手作りなことが伝わってきて、これはこれで萌える。

2. 『Vollmilch』

 これも初めて聴く。前作よりも圧倒的に華がある。ややクリアさに振り、聴きやすくしつつも、個性的なサウンド感は健在。前作のミニマルなセッション感、クラフト感を残しつつも、前作にはいなかったサックスが楽曲にポップさやコミカルさを与えている。展開としてもわかりやすい(盛り上がりが見える)曲が増えた。ミニマルさは維持しつつ、前作の「音楽として心地よくても、展開がないと間が持たない」という点を、おおむねうまく修正した模様。
 前作は本当に「自分達のセッションのお気に入りを並べた」という感じで、制作におけるリスナーの優先順位は低いような印象を受けた。
 しかし、今作は100%聴かせるために作っているということがよくわかる。「弾いてる側は気持ちいいけど、聴く側はその自慰行為に付き合わされてたまったもんじゃない」という事態にはなっていない。このアルバムはちゃんと楽しい。
 その上で、まだ曲によっては長く感じる。もうちょっとソロを回したり、展開に起伏をつけてほしいと感じる曲もある。ただ、これは彼らの魅力であり、個性である「ミニマルさ」と明らかにトレードオフに感じるので、非常に微妙な話。一見、気まぐれにセッションを重ねているように見えて、ものすごく繊細なバランスでできている音楽であることが、ぼんやり見えてきた。
 多少ネガティブなことも書いたが、全体としては、圧倒的に前作より好みである。これは通して聴いて初めて気が付いたが、曲間のインターバルが限りなく0に近く、前の曲が終わった瞬間、次の曲に突入するという工夫がなされている。このおかげで、曲間の中だるみは全くなくなった。
 単純に聴こえてくる楽器や音色のバリエーションが増えたことも大きい。聴いた印象が彩り豊かになった。
 完全な「Vulfpeck一見さん」に初期作品で勧めるならば、これは候補の一つ。バランスがいい。

次回、『My First Car』〜。


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