恋焦がれ
恋愛経験なんてないって言ってみたけれど、恋焦がれ夢中に追いかけていたものがある。
東洋医学 鍼灸治療
私の兄は中途の障がい者で、目を患い足が悪くそして統合失調症。二十歳から何十年も実家の部屋にこもっている。
病院で出した薬を飲んでも変わりはしないし、自分にできることがあったらいいなと思い、思い付いたのが鍼灸師だった。
まだ、外出できていた頃は電車に乗って鍼灸院に通い、小学生の私も一緒に治療を受けたりしてたんだった。
鍼灸師っていいなと思ったのは、社会人5年目辺り。就活当時は不況のIT革命時代でSE職がもてはやされていた。実際仕事をしてみると、全然好きじゃなかったけど、仕事ってこんなもんだろうと思っていた。
どんどん新しくなる技術。常に更新していかないと置いていかれるスピード。好きな人はどんどん伸びるんだろうけど、義務的に勉強させられるのが辛かった。
私も好きを仕事にしたい!
当時、日経ウーマンやらケイコとマナブやら見ては、思いを巡られていた。
そして、ヨガブームなるものがあり、御託に漏れず、ヨガマットを抱えてお気に入りのヨガスタジオを探しまわっていたときに、おもしろいヨガスタジオがあって。クリパルヨガ。
そこではヨガはもちろん、瞑想とかヨガセラピーとかやっていて、自分自身に向き合う作業をしているうちに、思ったこと。
兄をちゃんと見る。
それまで、兄のことを横目で見ていたというか。自分で兄を認めてなかった。だから、家族のことを聞かれることが嫌だったし、適当に誤魔化してちゃんと話すことなんてなかった。
兄は障がい者です。
たったそれだけのことを伝えると、涙が止まらなかった。
そうして、会社を辞めて鍼灸師を目指すに至った。
好きを仕事にする。しかも、何千年前の書物を教科書としているんだから、どんな時代も変わらない。ずっと礎になるものを積み上げるように学べる。
ずっと無視し続けた兄を治すため。
とまあこれが、私の表の歴史。
でも、八木さやちゃんの恋愛講座を受けて、気づいたこと。
本当は私、人間に飽き飽きしていたんだ。
だから、東洋医学という概念に恋をした。
鍼灸治療という仕事に恋焦がれた。
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