見出し画像

Simple is best._Physician Scientistの挑戦4

在宅診療を行う上での問題点は、全てがcollectiveでないこと。これに尽きる。

患者さんのベッドはクリニックを中心とする半径16km圏内に点在しており、関わるクリニック・医院、ケアマネージャー、訪問看護ステーション、訪問リハビリ、デイサービス、訪問介護ステーションなど自分の地域にそれぞれ3つずつしかなかったとしても、それだけで4の6乗=4,096通りの組み合わせがある。初診で患者さんのご自宅にお邪魔した際は病歴・病態の評価と同時にこの4096通り (正確にはクリニックは決まっているので1024通り)のどの組み合わせなのか、それがいつ患者さんに提供されているのか、また今の患者さんの状態に適切なのかの評価を行う。病院で勤務していた時には聴取もしなかったし、恥ずかしながらそもそもそれぞれがどういうサービスなのかの区別もつかなかった。だが、適切な治療同様に適切な看護・介護サービスの調整が患者さんの予後や満足度を大きく左右することをこの半年間で思い知った(いつかデータ化して論文を書きたいと思っています)。

我々医師だけでなく、関わる全職種がそれを把握・共有することがとても大切なのは自明だ。ところが、それを集約するシステムが存在していないために、地域毎に色々な取り組みが行われているようだ。市立病院など地域の基幹病院が中心となって定期的に交流会を開き、顔の見える関係を築く努力。また、各職種を横断して情報を共有するアプリも開発されている。実際に僕自身も多職種連携のためのメッセージングアプリを使っているが、ただの掲示板の役割しかないのにとても使い勝手が悪い。また地域毎に開発されているアプリの資料を見せてもらったが、全ての機能を詰め込もうとし過ぎて逆に誰も使いこなせないんじゃないの?という印象を受けた。やはり現場のニーズを本当に知らない人が会を開いたり、アプリ作成をしたりするからどうしても焦点がずれている気がする。

新薬開発においてもこうした仕組み作りでも現場に出ている人間が作ろうという文化が少なくとも日本にはほとんどない。なので、今回試作品として患者さんを中心に医療・介護のステータスが共有でき、かつ簡単な情報交換が出来るアプリを作ることにした。今は地域の看護・介護職の人達のインタビューを開始している段階だが、考えているコンセプトは至ってシンプル。

「患者さん毎のカレンダーと簡単なメッセージ交換のためのスペース。」

まずはこの2つがあれば十分で、枝葉は後からニーズに応じて少しずつ足せば良いと思っている。

ロンドンのTubeは運行表も適当だし、トラブルもいっぱいあるけれど、人を絶え間なく目的地に運ぶ、というシンプルな目的がはっきりしている。システムズバイオロジーという極めて複雑なネットワークを扱う研究所のボスにも、とにかく最初はシンプルに考えろ、と口酸っぱく言われる。Simple is best.の精神を忘れずに自分たちが使いやすいアプリを作れたら、と思っています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?