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Amazonか薬局か?Physician scientistの挑戦2

処方箋の原本。

薬剤師法第27条で定められたこの保存が、訪問診療の大きな足枷になっている。そもそも外来診療と違い、訪問診療では原本を診察直後に患者さんにお渡しするだけでもひと苦労だ。以前は訪問前にあらかじめプリントアウトしたものを持ち込み、診察時に二重線と訂正印でいっぱいの処方箋をお渡ししていたし、現在はとてもモバイルとは呼べないモバイルプリンターを持ち歩いて患者さんのお宅でプリントアウトしている。処方箋の原本を置く、たったこれだけのために往診医が割く労力は大きく、ひいては診療のクオリティーを下げる要因になっている。

病院のように電子カルテでオーダーするだけで薬が患者さんの元へ届くシステムがあればどれだけ便利か、と思う。技術的には十分可能だろう。事実コロナウイルスパンデミックの医療資源不足を解消するべく、Amazonビジネスが医療機関専用のストアを立ち上げている。Amazon Pharmacy(実際にはまだ存在しない)のようなオンライン薬局が膨大な在庫を管理し、電子カルテでオーダーするだけで自宅に薬が届くような日もそう遠くない気がするし、そうなってほしいと心底願っている。もちろん、上記薬剤師法を含めた法律の壁を乗り越える必要があるとは思うが、これは患者さん、往診医双方からの切実なニーズである。

仮にそのニーズが満たされた場合、最もその存在意義を問われるのが薬局・薬剤師さんだろう。

ところが医師・看護師さんと違い、日本の薬剤師さんは本当の意味で「患者さんを診る」機会に恵まれておらず、そのせいでこうした危機感を持って仕事をしている薬局・薬剤師さんは僕の感覚では皆無だ。まず調剤に関しては、今後間違いなく自動化が進むであろう。ラスト1マイルである配薬に関しても、エスプレッソマシンのような機械に薬を入れておいて、ボタンを押せばその時に飲む薬が出てくるマシン(採算がとれるかは分からないがこれもニーズがある)が登場すれば人である必要はなくなる。そうなった時に薬剤師さんの仕事はより患者さん、医師に近い所にシフトして来るだろうし、そうなるべきだと思う。たとえば僕が留学で住んでいたイギリス含めヨーロッパ各国ではまず風邪や胃腸炎で医療機関に受診出来るチャンスがないため、これらの疾患を診るのはPharmacistの仕事になっている。風邪を引いたら街中の薬局へ行き、Phamacistに症状を告げて言われるがままの薬を買ってあとは家で静養する。これがヨーロッパ人の一般的な風邪の治し方である。こういったスタイルであればたとえ調剤が自動化されても薬剤師さんの仕事は残る。

ただ、日本にこのスタイルは定着しないと推測される。医療機関へ受診出来るハードルが世界一低いし(これは世界一素晴らしいこと!)、他人の失敗に対し不寛容な国民性があるからだ。それなら日本の薬剤師さんの未来の仕事は?これを地域の薬剤師さんとともに考え、日本(もっと小さい地域)オリジナルのスタイルを創って行きたいと思っている。

Amazon Pharmacyは薬剤師さんから仕事を奪うものではなく、薬剤師さんの仕事を一段階生産性の高い場所へ押し上げてくれるものだと、僕は信じている。


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