永遠に降り続く雨の話

雨が降り続いてから220年が経過した。

雨が降り続いて1年、町中が水浸しになり世界の居住区は全て失われるだろうと誰もが(専門家でさえ)予想した。しかしその絶望的な観測は外れることになる。

雨が降り続いて3年、人類の居住区の20%が失われたもののそれ以上居住不可能地域が増加することがなかった。海水からの蒸発と降雨量が均衡し、降雨量及び居住可能区域の減少ペースがサチュレーションしたのだ。斯くして人々は雨と共に生き延びることに成功した。もちろん少なからずの犠牲者(幾つかの人類以外の生物種は絶滅した)は発生したものの。

今の人々の生活について記したい。人々は殆どの時間を在宅で過ごす。インターネットの飛躍的な進歩により直接顔を合わせることのないコミュニケーション様式が一般化した。また、物流に関してはAIが統括するロボットによって賄われている。

技術的進歩により、陽の光を浴びずともセロトニンを合成することにも成功している。これにより鬱病患者及びそれによる自殺者数は減少傾向にある。

雨が降り続いてから20年目には、こうした生活様式は一般に受け入れるようになった。特に生まれた時から雨が降り続いていた世代(一度も陽の光を体感したことのない世代)にとって、この生活はごく当たり前のものとなっている。

さて、僕の仕事について書こう。それはこの長きにわたる降雨を食い止めることである。この仕事を遂行するにあたりいくつかの葛藤がないとは言えない。1つ、既に雨と人類の共存生活が確立してしまっていること。2つ、僕はこの研究に220年間失敗し続けていること。

しかしながら、僕はこの仕事をやり遂げるつもりだ。たとえ今後何百年要したとしても。その原動力は一人の少女の言葉だ。

「止まない雨は無い」

ある時、彼女は自身に満ちた表情でそう断言した。使い古されたその言葉は既に過去の遺物だった。それでも彼女は”本当に”そう確信していたのだ。

当の彼女は120年前に死去している。自殺だった。

もし、僕の仕事が成功した暁に、この世界はどう変容するだろうか。僕はそんなことには一切の興味が無い。僕のこの仕事の達成こそが彼女に死に対する唯一の手向けなのだから。


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