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U.C.0069/03/31

明日4月1日は俺と妻の結婚記念日。
もう結婚して3年たつ。
明日は仕事なので日曜日の今日にステーキを食べに行くことになっている。
贅沢は今日だけだ。俺の仕事はしょせん派遣だし、その中でも大した仕事を任せてもらえているわけではない。

俺の家系は実はそんなに貧乏ではない。
俺のお父さんお母さんは稼ぎが少ないが、祖父の財産があるため何とか地球に住めている。
いつか戻って財産をいただいてやろうと思っていたのに、
悠長に考えている間にもう地球とは連絡できる状態ではなくなってしまった。
俺だけの稼ぎでは生活がぎりぎりだ。

今やなんでもかんでも軍事費だ軍事費だといわれる。税金と名のつかない社会保障まで軍事費に回されているという噂だ。
これからどう過ごしていけばいいんだろう。

22歳のころまでサイド6に住んでいたころが懐かしい。
大学生だったあの頃は何の心配もなかった。
法学部だった俺たちは休みの日でも朝から大学に行って文学を読んだり、
お昼は学食で友達と色んな議論をした。
一番仲良かったのはあのころから宮下だったな。
よく飲みに行ってはこれからの社会について議論した。

大学を卒業後はサイド3に移った。
実家のある地球に帰った方がお母さんも喜んだだろうが、
やっぱり俺はダイクンの思想をまじかに感じたかった。

エレニズム思想への反発はいまだにある。
アースノイドらはたいして働きもせずに労働者をこき使っているだけで莫大な富を得ている。
政治家や軍との癒着もあるためどんどん彼らの有利なよう世界が成り立ってしまっている。
彼らアースノイドは人がどこの出身であるかを過剰に気にする。コロニー出身であることがわかればまともに名刺すら受け取らないこともある。
その考え方は伝染し、コロニーの中でもより地球に近いものはより地球から遠いコロニーを差別するといった状態が広がっている。
俺も大学時代の仲間たちも、この現状を変えないといけないと考えていた。

ダイクンの唱えたコントリズムは特に新しい思想ではなかったが、それを実践したというところが彼の一番の功績だろう。コロニーはその名の通り地球の植民地であるかのような扱いを受けてきた。
虐げられていたアースノイドの怒りが頂点に達していた時に
自分たちで主権国家を作った彼の考えに俺たちはしびれた。
あこがれた。

だからこそ彼の死後らは骨抜きになった。

ザビ家はアースノイドはすべて敵であるかのように主張する。
そしてザビ家自身は明言していないが、彼らを賛美する者たちはまるでアースノイドは殲滅すべき対象であるかのように語る。
ジオン公国は着々と軍事整備を進めている。SNSではアースノイドに関するあることないことが共有され、もはやヘイトは止められない状況になっている。

大学仲間の間でも思想は分裂した。
ザビ家のやり方に賛同するもの、彼の強硬的な手段に反対の者。
俺は反対だ。俺たちの唱えたのは平等であっていづれかの民族の浄化ではない。
だが、大半はザビ家側についてしまったようだ。もう彼らと楽しくは飲めないだろう。俺が愛していたのはダイクンの思想であって、ダイクンそのものでもましてやザビ家ではない。

ザビ家は地球連邦との全面戦争を予定しているのだろう、
周りの人間にどんどん招集勧告が届いている。
俺のところに来るのも時間の問題だろう。
強制ではないが、貧乏な俺は軍に行かないとまともな生活は続けられないだろう。結局貧乏人にとっては自由など無いのか。

今日はこのぐらいにしておこう。




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