基本再生産数について

基本再生産数、あるいは、実効再生産数と呼ばれる数値について、計算方法やその性質についてまとめます。

基本再生産数(R0)とは

感染症の感染力の強さを表す数値で、「1人の感染者が感染してから回復(あるいは死亡)するまでの間に新たに感染させる人数」と説明されます。

実効再生産数は、基本再生産数とほぼ同じですが、基本再生産数が感染初期で人為的な介入が行われていない状態での値を指すのに対し、実効再生産数は感染が拡大した後や人為的な介入が行われた後の値を指すという違いがあります。

感染期間とは

感染者が他人に感染させることができる(感染力を持つ)期間を指します。

感染力と症状は関連はあるものの完全に一致はしないため、発症前から感染力があったり、症状が回復する前に感染力を失ったりすることがあります。また、無症状で感染力がある場合もあります。

実は感染期間は計算では求められず、患者を観察して求めなければなりません。なので、臨床報告を元に推定することになります。

また、感染力のある感染者の人数を、感染人口と呼びます。

ここでは計算を簡単にするため、感染力は感染の翌日から発生すると考えます。

計算方法1(超簡便な方法)

感染期間を2週間(14日間)とすると、以下のように計算できます。

R0 =(今日の陽性者数 ÷ 14日前の陽性者数)-1

考え方としては、感染者が最初100人いて、それが感染期間(2週間)後に350人になったら、最初の100人が感染期間中に250人にうつしたということになるので、基本再生産数が2.5ということになるのです。

ちなみに、これは比率なので、検査で全感染者を見つけられていなくても、感染者のうちで一定の割合(例えば感染者中20%の重症者のみ)が発見できていれば、分母と分子で打ち消し合って正しい基本再生産数が計算できます。

計算方法2(少し正確な方法)

ところで、感染期間の長さを考慮すると最初の式は少しおかしいことに気づきます。つまり、「最初100人いて」と言った時、この中にはすでに感染期間が終わって人に感染させなくなっている人も含まれているはずだからです。

たとえば、感染期間が14日ならば、14日前に感染力のある感染者(感染人口)は、
 14日前の感染者数 - 28日前の感染者数
となるはずです。すると、最初の簡便な計算式は、次のように変形されます。

R0 =(今日の陽性者数 ー 28日前の陽性者数)÷(14日前の陽性者数 ー 28日前の陽性者数)-1

あるいは、
R0 =(今日の陽性者数 ー 14日前の陽性者数)÷(14日前の陽性者数 ー 28日前の陽性者数)

具体例

日付  | 陽性者数 | 死亡者数
5/1 | 14305人 | 455人
4/17 | 9297人 | 190人
4/3  | 2793人 | 73人

上の陽性者数を先の式に当てはめると、
 ((14305 - 2793)÷(9297 - 2793)) - 1 = 1.77 - 1 = 0.77
となり、基本再生産数は 0.77 と計算できます。

同様に死亡者数に対しても計算すると
 ((455 - 73)÷(190 - 73)) - 1 = 2.26
となります。

計算方法3(さらに正確な方法)

前掲の計算式は、しかしよく考えると、あまり使いやすくなければ正確でもありません。使いやすくないとは、2週間も前からの増加数を見るので、即時性がないためです。正確でないとは、2週間の間には2次感染3次感染が起きるので、最初の感染者が直接感染させていない人数も含まれる点です。

この点を改善するには、直感的には1日分の感染者の増加に感染期間の日数を掛ければよいように思われ、実際、それで計算できます。

R0 = (累計感染者の1日間の増加数/前日の感染人口) × 感染期間

証明は巻末に添付します。

具体例

日付  | 陽性者数 | 死亡者数
5/2 | 14571人 | 481人
5/1 | 14305人 | 455人
4/17 | 9297人 | 190人

陽性者数からR0を計算
 R0 = (14571 - 14305) / (14305 - 9297) * 14 = 0.74

死亡者数からR0を計算
 R0 = (481 - 455) / (455 - 190) * 14 = 1.37

感染期間の推定誤差の影響

ところで、感染期間は計算で求めることができないとすれば、感染期間が不正確だと、基本再生産数の推定にどのような影響があるのでしょうか?

実は、感染期間がN日からN+1日延びると、基本再生産数R0は
 (R0 - 1) ÷ N
だけ伸びます。(証明は巻末に添付)

これによれば、R0が1より大きければR0は大きくなり、R0が1より小さければR0は小さくなります。

R0が1より大きければ感染拡大し、1より小さければ収束するということを考えると、感染期間の違いは感染拡大の判断には影響を与えないことが分かります。

基本再生産数を別の解釈

上の議論を突き詰めると、極端に言えば、感染期間1日として計算しても、感染拡大の判断は可能ということです。

つまり、
 今日の新規感染者数 ÷ 昨日の新規感染者数 >1
を見ればよいということです。これは直感的にも理解できるかと思います。

さらに、1日分だと日々の変動が大きく出るので、平均値を取って
 今日の新規感染者数 ÷ 過去数日間の平均新規感染者数 > 1
を見ると、安定的な判断ができそうです。

しかし、この式には理論的に意味があるのでしょうか?

計算方法3
 R0 = (累計感染者の1日間の増加数/前日の感染人口) × 感染期間
を式変形して書き直すと、感染期間をN日として、
 R0 = 今日の新規感染者数 ÷ 前日までN日間の平均新規感染者数
と書くこともできます。

これは上で書いた平均値を取るアイデアと全く同じもので、理論と直感が奇妙な一致を見せる瞬間ではないかと思いました。

添付資料

計算方法3の証明

画像1

画像2

画像3

感染期間が1日延びた時のR0の変化

画像4

画像5


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?