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枠組みのない知的好奇心をつなぐ媒体「博物館」

自ら進んで博物館や美術館へ訪れるようになったのは高校生になってからだ。

そこでみられた資料や作品は,学芸員や作家だけでなく様々な領域の人が関わった証として存在していた。

展覧会自体がその博物館の「表現」であり,その空間がいわば博物館のつくり上げた「作品」なのかもしれないと無知ながらに思い,そういった空間がこの上なく好きだった。

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ミュージアムの語源はMusaという知的好奇心の神で,ミュージアムはそういった神が居られる場所,美神の館のことである。

知的好奇心に枠組みはない。

ミュージアムの翻訳語である「博物館」は社会教育の場としての機能を持ち,枠組みの中での教育が行われる学校教育とは異なる教育施設となっている。枠組みの無い学びに対して取り組む博物館において,その内容の広がりは限定されない。

本質的に,博物館は枠組みのない知的好奇心の集まる場所となりえる。

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大学生生活の4年間で見てきた博物館は「媒体」という像を持っていた。

一般人や専門家といった「人」,政治や教育といった「社会」,〇〇学の専門や教養といった「学問」を結ぶ媒体として,博物館は存在している。地域内外,国内外問わず物事を学問的につなげられるのは,枠組みのないものを対象とした博物館特有の機能のひとつだ。

また,博物館の規模は施設の立地場所と組織(経営者,運営者)によって大きく異なる。

地方の公立博物館は人員不足で,発信力が弱く,資金を得難い中で,より「地域性」を重視される活動を行うことが望まれる。
一方,都市の私立博物館は,その経営会社の利潤に貢献するように,市民がその会社に対して好印象を持つように事業展開が行われる。

施設が都市にあるのか地方にあるのか,公立なのか私立なのか。
その違いが博物館の事業目的に対してより大きい差を生み,博物館の事業展開を変える。

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博物館の事業には表と裏がある。

表とは観られている(観客としては観ている)部分のことを言い,裏とは普段には観られない部分のことをいう。

博物館は表をよりよく観せるため,展覧会の準備や資料の保管,維持などの作業を裏で目立たせることなく行っている。ひとつの博物館施設の中で,表の空間は全体の半分にも満たないことがほとんどだ。

表裏があることは博物館を博物館たらしめている。

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「博物館をつくる」ことは,博物館が「媒体」の機能を持つことを理解し,枠組みのない対象から,施設,組織,内容をつくり出すことだといえる。

そうして,それに伴った資料の収集,展開,表と裏の設計を行うために,各博物館で内容や規模に違いが生まれる。

それが高校生の時分からみてきた博物館の「表現」の実態だった。

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以上のことは博物館学芸員資格課程からの学びである。

学芸員資格を取得したからといって,その資格自体に価値があるわけではない。学芸員資格を取得したということは「博物館側」から物事を考えるための基礎を得たということだ。

実際,学芸員になるかは今のところわからない。

目下の進路である大学院では,枠組みのない各分野がどのような秩序のもと,どのような状態で存在しているかを知り,その上で現代における「表現」が織りなす世界を体系的に捉えること。

そのうえで,博物館という魅力ある表現媒体へのアプローチを考える。

丁寧に,大胆に,確実に。「学生」としての猶予のもと,枠組みのない知的好奇心を持って。

(記:2018.1.15 博物館学芸員資格課程最終レポートを書くにあたって A・K)


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