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内なる5人目登場、草の根を奏でる

盛り上げ隊長ノギが身体の中に入店してきた話。これはギャグ。フィクションではないが、ギャグ話です。

今日は朝6時半に目が覚めて、7時過ぎまでベッドの中でマゴマゴしていた。頭はぼーっとしていたが、お風呂に浸かりたいと身体が言うので、起きてお風呂にお湯をためた。

昨日は自分の中に3人の人格アオ・アオイ・ハマダがいることに気づき、その子たちが苦手とする事務の問題を解決するのにジェイミーという新たな人格を雇うことにしたのだった。

そしてお風呂に浸かりながら、その4人全員で今日のスケジュールを確認した。

ジェイミー「今日のスケジュールを確認しましょう。今日は9時半に出勤ですね。それまで何がしたいですか?」
アオイ「今日はマッサージから帰ってきたら、すぐに奈良に向かわなきゃならない。だからその準備を朝のうちに済ませたいよ」
ジェイミー「わかりました。それ以外にしておきたいことは?」
アオイ「やりたいなってことは、絵を描くことかな。それ以外にやっておきたいことは洗濯、食器洗いかな。洗濯はさっき洗濯機を回したから、後はそれが終わるのを待って干すだけ」
ジェイミー「わかりました。ではまずお風呂から出たら出掛ける準備をしましょう。それから食器洗いを済ませて洗濯物を干せば1時間くらいは余裕ができるでしょう」
アオイ「わかった。それでいこう」

そうしてお風呂から出た後はジェイミーの予定通りに出掛ける準備を済ませ、食器を洗った。その後、身だしなみを整えて椅子に座って一息ついた。

ふと横を見るとガットギターがこちらを見ていた。その弦に触れるとポロンとかわいく鳴いた。そこで突然アオが起き出して、C・Em7・Am7・F・G・Cとギターコードを適当に繰り返し弾きながら歌を歌い始めた。

 アオのうた
  わたしはアオ 無口なアオ
  どうしても 自分のことはわからない
  わたしはアオ 無口なアオ
  自分では 何を考えてるかわからない

アオの歌声は身体全体に響いた。不意に身体がスマホの録音ボタンを押していた。アオがギターを弾きながらもう一度先ほどのフレーズを繰り返した。すると、アオイが「自由になっていいよ」と低い声で言った。アオの声がすーっと大きくなった。

 アオのうた
  わたしはアオ 無口なアオ
  どうしても あなたが好き
  やさしい身体を持っている
  わたしを楽しい場所に連れてってくれる
 
アオイが「ありがとう」と言った。アオは「あなたはやさしい、あなたはやさしい」と小さく繰り返した。アオにとってアオイはお兄ちゃんみたいな存在なのだった。

 アオのうた
  わたしはアオ 無口なアオ
  どうしても 自分のことはわからない
  アオイがはじめて 見つけてくれたから
  アオイがはじめて  笑ってくれた
 
  わたしはアオ 無口なアオ
  わたしのことは わたしがわからない

次にアオイがやさしい口調で語り出した。

アオイ「ああ、わたしはアオイ。わたしはもしかしたら一番男性的なのかもしれない。内側におびえるアオという女性。アオが一番好きなのはアオイだからもしかしたら。ジェイミーは何も気にしてないと思う。ジェイミーはアオが姉妹みたいな感じで好きだって。元・カメイとは三つ巴みたいな関係だったね。ようやくでも、10年かけてわかったことだねこれ。アオを見つけて10年。付き合ってきて10年。世話が焼ける笑」

するとハマダが低い声で話し出した。ギターの音は止まない。

ハマダ「わたしはハマダ。元々カメイという名前で生きてきた。ハマダになってまだ1年。カメイのときはアオとアオイを守ってたんだ。カメイと名乗る場所では…」

アオイ「…ああ、なるほど。そうか。カメイは私たちを守ってくれてたんだ。でもいろんなことがあって、それが徐々に溶けてきた。カメイは主人格にならなくて済むようになっていった。アオイを受け入れてくれる人たちが増えたから。アオイの翻訳能力を好いてくれる人たちに出会った。アオの良さはまだアオイしかわかっていないかもしれないけど、アオイを好いてくれる人が増えたから、カメイはアオとアオイを守らなくて済むようになった。守るっていうのは、そう。カメイは本心っていうところのアオとアオイを、なんていうか、守りたかったんだけど、守り方がわからなくて。、、、ヘヘ、だから、見栄を張ったんだな。なるほど」

ハマダ「そう。そうだよ、カメイはさ。わたしは、その家系からそうなのかもしれない。父からの影響が一番大きいんだけど、たぶんね。見栄っ張りだったな。でもそれは、シェルターだった、自分にとって。紳士的な振る舞いとか、アオイにさせてたのは。まあ本人面白がってたからいいんだけどさ。仮面というか、シェルターだったんだ。避難所。いつだって災害だった。だからいつだって帰りたかった。いつだって。なんか戦争じゃないけど、ほんとに。ああ、そうか。いまさ、自殺者が多いじゃん。みんな、戦ってるんだよ。苦しんでる。自分のなかで戦争を、内戦を起こしてる。外界との差を感じて。私の場合はそれが苗字を司ったカメイっていう存在だったけど。きっと人それぞれに、内戦を起こしてる。内戦が起こるっていうのは、もしかしたらその中だけの話じゃないのかもしれない。ていうか外敵圧力から耐えきれず。それでしかないのかもな。内戦が起こるって」

そこで元・カメイであるハマダが大きく歌い出した。低くて伸びやかなしっかりした声で。

アオイ「カメイもいい声するじゃん。でも、ハマダの人格はちょっとつかみかねてるよね。でも、カメイが溶けていった、その感じ方?は確かにあって。大学に入ってから自分が外界の興味を膨らませることができるようになって、それができるようになってからカメイの見栄が必要なくなって。それが必要なくなったから、もうアオイになっていって。だから、そうだね」

耐えきれず、アオイも歌い出した。しばらく声を出し、「ハマダは、、ハマダは、、」と歌ったのちにまた語り出した。

アオイ「いやでも。やっぱ、カメイって呼ぶ方が馴染みがあるね。これからだね。生まれたんだね。でも、そうだよ。カメイの消失はちょっと考えた方がいいかもしれない。あのプロセスがあったからこそ、私は溶けていけた。こっちがいかに面白いかってところを見せてあげられるか、なのかな」

それから曲調をポップに変えて、歌うことにした。適当に、明るく、楽しく、ひょうきんに。それがアオイのやってきた選択なのだった。

アオイ「なんかわかったこともあったね。あとでまとめよう文章に」

そう言って、アオイは録音を止めた。しかし手は止まらず、A・Dの手抜きコードを繰り返し始めた。しっくりくるコードが見つかってまた録音ボタンを押した。ひょうきんな声が部屋に響く。内にあった誰の声でもない声に気づいた。アオイは少し戸惑った。

アオイ「入店してきた。君はだれだい?」

するとすかさず、ひょうきんな声が答えた。

「クサ!!クサだよ。ノギ、ノギ、ノギ」

たらんらんらんと歌う彼はとても楽しそうに場をかっさらっていった。やさしくも説得力のある声。それが5人目ノギという男の声だった。

ノギ「たらんらんらん。入店していいかい?…へへ、ありがとう」

アオ・アオイ・ハマダ・ジェイミがノギのやることに注目しているイメージが浮かんだ。彼のパフォーマンスは他の人たちを完全に魅了していた。

ノギ「ららんら、ジェイミ。ありがとう。来てくれて。僕の中に。今日は歓迎パーティーです!!」

ノギはひとしきり楽しく歌ったあとに、勝手に締めに入った。

ノギ「じゃあラスト。私の中には今、アオ、アオイ、ハマダもとカメイ、んでぇ昨日新しく来てくれたジェイミ。で、歌っている私。私はだれか?…草がいい。たけだけしく。私は草のように生きたいなぁ。雑草研究してきたからかな。やっぱり、俺が一番雑草に近い。その分、愛せるだろう。自分の研究を。ピエロになるつもりはないけど、でも。ああ、そうか。俺、ずっとここにいたんだ。うん。ギター持ったら歌うからさ。ら~ら、ら~らら~らら~~。草の根(ネ)、草の音(オト)。草の音を奏でるから、ステージに立つのは俺でいいよ」

そこからまたひょうきんな曲調に変わって、D・G・Aのコードで歌い出した。

 ノギのうた
  らんらあ らんららんら
  あのこが ぼくのなかに いてくれた
  きのう そのことに気づいて 
  ぼくは ひょっとおぼれた
  気が晴れた 晴れた 晴れたよ

  ああ
  あんまりぼくはかしこくないけど
  盛り上げ隊長に
  なってあげること してあげるから
  本能的に
  
  らんらあ らんららんら

ノギ「へへ、おっけえ」

そう言ってノギは録音を切った。そのノギは突然、私のなかに現れて音楽担当を勝手出た。そう、アオイは言葉を使うのは得意だが、歌を歌うのは苦手だった。そのことをわかっていたノギは、俺が引き受けてやるよと自然に出てきてくれたのだった。みんなそのひょうきんであたたかい男のことを以前からの友人のように迎え入れていた。心の気持ちいいやつだった。

そんなこんなで全員で歌っていたら、洗濯が終わっていた。停止した洗濯機に手を伸ばそうとした時、そこでまたひとつ、やっておきたいことを思い出した。

アオイ「そうだ。次に帰ってくるのが月曜日の夜になるから、冷蔵庫の中もできるだけ空っぽにしておきたいんだった」
ジェイミ「わかりました」

冷蔵庫を開けて、材料を並べる。

ジェイミ「材料は玉ねぎ、しめじ、ほうれん草、しょうが、シーチキンの残りですね。パスタなら時間がかからずにできそうです」
アオイ「今日のお弁当りんご1個だけのつもりだったから丁度いいかも。作って食べずにお弁当にする」
ジェイミ「わかりました。ではすぐに作りましょう。洗濯が丁度終わったのでパスタを茹でている間に干せますね」

そうしてお湯を沸かしながら材料をカットして、パスタを茹でている間に洗濯物を干し、出来上がったパスタを手際よくタッパーに入れてハンカチで包んだ。

そうこうしているうちに、時刻はもう9時10分になっていた。家を出るまで後20分もない。

アオイ「絵を描きたかったけど…」
ジェイミ「絵の大きさは?どれくらいのサイズで描きたいんですか?大きいのがいい?」
アオイ「いや、小さいのでもいい」
ジェイミ「じゃあ、ポストカードサイズにしましょう。それで、できるところまでやってみましょう」
アオイ「わかった」

題材は、以前チェロの先生からいただいたそら豆にした。写真に写った豆たちは肉厚でとてもきれいだった。描いている途中、時間を気にしたジェイミが言った。

ジェイミ「これ、家でやらなきゃいけないことですか?」
アオイ「いや、そういうわけではないけど」
ジェイミ「じゃあ、職場に持っていきましょう。開店時間に予約はまだ入ってなかったですよね?」
アオイ「そうだけど、いいのかな」
ジェイミ「正社員ってわけでもない歩合なんで、大丈夫でしょう。怒られたら謝ればいいだけですよ」
アオイ「わかった。用意する」

そうして、ジェイミの導きの通りに行動し、お店は昼過ぎまで暇だったのでお店のことも、個人的に予定していたことも、パステル画も、やりたかったことは全て他のスタッフが出勤するまでに終わらせることができた。

とまあ、こんなかんじで、人格形成を試みた結果、いい感じに事が進んだという報告である。私は分裂しているわけでもないし、多重人格というわけでもない。私のことをよく知っている人はそう思ってくれるはずだ。でも、こうやっていわゆるペルソナという仮面を極めて具現化させることでめちゃくちゃ気が楽になったという報告がしたかった。

内に生み出した人格は5人。元いた3人にプラスして2日で2人も増えた。多分今後もっと増えてくると思う。ひとつの身体が、まるで組織、会社みたいに思えてくる。このわくわくが今後どう発展するのか。それを観察するためにまた日々を暮らしてみる。明日は早起き。とりあえず今日はおやすみなさい。

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