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ファーストラヴ

Title:ファーストラヴ
著者:島本理生
出版社:
感想を書いた日: 2023-02-27

# あらすじ
アナウサー志望の女子大生が父親を殺した容疑で逮捕された。殺害動機や、女性の性格形成に至る過去の出来事を、訳ありの臨床心理士と国選弁護士が紐解いていくミステリー小説。

# 感想
こんなに引き込まれた小説は久しぶり。どんどん事実が明らかになって行く後半、本を読むのがやめられなくなる程引き込まれた。なる程直木賞受賞作品との事であり、とんでも無く私には面白い作品であったが、万人に勧められるかと言えば、それまたノーである。でもフィクションでこんなエグい小説が書けるのは凄い創造力としか言えない。よだかの片思いから来た訳だが、もう一作品、島本理生さんの小説を読んでみようと心に決めた。以下ネタバレ含む感想と自分の回想エピソードについて記します。

○3人の関係
読み始めはわかりにくかった。誰が発している言葉なのか丁寧に解読するつもりも無かったので、やんわり、適当にぼんやりと人間関係を把握して行った。そんな読み方でも全然問題ない。徐々に関係が明確になって行く構造が、読み物としてはやめられなくなる面白さである。特筆すべきは由紀と迦葉(かしよう)そして我聞の三人の関係。まともな?普通の親子関係が築けなかった由紀と迦葉の二人が、どの様に親密になり、距離を置くようになり、間に我聞を挟み、義兄弟としてどの様に接しているかを想像すると胸が熱くなる。それにしても由紀の旦那である真壁我聞がイケメン過ぎる。全てを承知の上で二人の間に入って、二人に救いの手を差し伸べていたのはかっこいい。まぁそう仕向けた迦葉が由紀にとってのファーストラヴと言う解釈が正解のようだが。

○ゾワーっとする幼少期体験
由紀と迦葉が救いの手を差し伸べる聖山(ひじりやま)環菜、彼女も親から正常な愛を受けられなかった不幸な女性であることが解き明かされる。その理由も不幸の連鎖が明らかになるのだが、聖山那雄人(なおと)は有名画家で自宅アトリエに生徒を集めてデッサン会を開いていたのだが、人格形成に大事な小中学生時代に彼女が受けた性的虐待と呼ぶに相応しいモデルとしての仕事の精神的苦痛がリアルに想像出来てしまう。大人の男性の鋭い視線に耐え、あろうことか裸の男性に肌を合わせて、その仕事が終わってからも大人の男性達に絡まれ、助けてくれるはずの親にも見放される精神的苦痛と言ったらエロさを通り越して、グロい。そうして男性に接する態度がおかしなことになり誤解?が益々広がり彼女を蝕んでいく。徐々に幼少期の闇、ファーストラヴと思い込む過去の恋愛体験が浮かび上がってくる構成が、もっと先が、もっと先がと読みたくなってしまう。父親と娘は血縁関係に無いことも、正常な関係を築けなかった要因であり、三浦綾子の氷点シリーズに通ずるムズムズ感がある。この話の展開が小生にはツボ過ぎるんですな。

○クロッキーのモデル
話題を変えて、読了後思い出された小生のエピソードをいくつか紹介します。中学校の美術の授業で、毎時間生徒が名前の順でモデルを交替しながらクロッキーの練習をした。気になる女性がモデルの時には、公的に彼女をしげしげと眺めることが出来ることに驚き、ワクワクした。自分がモデルの時には逆に見られるのは恥ずかしいとの感情が強く、頭を自分の脚の下に押し込むような変な蛸ポーズを取り、クラス中から描きにくいとブーイングを受けた記憶がある。これは例え5分間でもクラスメイトの視線に晒される精神的苦痛から逃げ出すための対策であった。この授業で描いたクロッキーを見返したいな。恐らく気になる子の顔はじっくり観察して、それなりに描いていたのでは?と思う。

○裸婦デッサン
絵を描くのは好きだったので大学時代は美術部で活動した。裸婦デッサンは当時美術部の大きなイベントの一つであり、モデル事務所と契約して半日ほど集会室でデッサン会を開催していた。何だろう変な空気にならないような雰囲気作りに気を付けていたかしら?OBOGにも声をかけておふざけ感を消すように努めていたし、会場にステレオセットを持ち込み、音楽を流しながらモデルさんもリラックス出来るように気を付けていたかなぁ。因みにモデルさんはおばさんでは無くて同年代の若い女性でした。この裸婦デッサンでもあまりにモデルさんを凝視するとエロい奴と疑われる?と思い、モデルさんをチラ見して、基本的に自分のスケッチブックに視線を落として鉛筆を動かしていた。音楽に合わせて足でリズム取ったりしていたことをOGに指摘されたことも強烈に覚えている。OBOG先輩方に、自分が描いた絵を講評して貰うのだが、「人物を描き慣れてるね、なんかお前の絵はエロ漫画みたい」と評してくれた先輩の視点の鋭さは新鮮だった。結局、私のエロさは見抜かれていたと言うことだ。笑

○映画
最後に、小説に出てくる登場人物の名前、漢字が難しくて頭に入るのに時間がかかった。映像の方がわかりやすいだろうねと思ったところ、なに、なに、この作品映画化されているの?由紀は北川景子で迦葉は中村倫也、監督は堤幸彦!やばい観たい。ネット配信で観れるのかしら?ネトフリにありますね。早速観るものリストに登録ですね。

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