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筋力トレーニングがスポーツパフォーマンスUPにつながるための力学的基礎知識「ラクロスのショットスピード向上を例に」

今回の記事では、トレーニングはどのようにしてスポーツのパフォーマンスを上げることにつながるのかを力学的基礎知識をもとに解説しています。

今回はラクロスのショットスピードを上げることを例に挙げていますが、本記事の知識は他のスポーツ動作にも十分応用できる内容となっております。

「トレーニングって大切そうだけどいまいちスポーツと繋がらないなー」と思っている選手の方、選手にトレーニングの重要性を伝えたいコーチ、トレーナーなど各指導者向けに書きましたので専門的なことはしっかりと解説しながら書きましたのでぜひ読んでみてください。

ラクロスのショットスピードを上げるには?

結論から言います。

クロスを通じてボールに大きな力積(りきせき)を与えればいいのです。

すみません、急に専門的な言葉が出て来てしまいましたね。
高校物理を勉強していた人なら懐かしく思うでしょう。

力積とは?

力積とは、物体の運動量を変化させる物理量のことを指します。

運動量とは?

運動量とは、物体の運動の激しさを表す物理量のことです。

言葉だけではわかりにくいと思うので、式と絵で説明します。

まず式から説明します。
運動量=質量×速度 です。
これを踏まえた上で絵を見てください。

例えばですが、目の前から体重100kgのゴツゴツの巨漢が全速力で突っ込んできたとします。前には体重50kgの普通の人が歩いてます。

この2人が正面衝突した場合どうなるか想像出来ますね?

上のようになります。
下のようにはなりません。

考えれば普通のことですが、どうしてこうなるのかを力学的視点で考えた時、先ほどあげた運動量というものが出てきます。

運動量は物体の運動の激しさを表すものでしたね。
その式は運動量=質量×速度なので

100kgの全速力で走っている巨漢は、50kgの普通に歩いている人よりもはるかに大きい運動量を持っていることがわかります。

そのためこの2人が衝突した際に小さい運動量を持つ普通の人が吹っ飛ばされてしまったのです。

試合で相手とぶつかって吹っ飛ばされた時って大体相手は自分よりも体重があったり、速いスピードでぶつかってきた時だと思いますが、あれは自分よりも相手の運動量が大きいからなのです。

逆に相手よりも体重が軽くとも速いスピードでぶつかれば相手を吹っ飛ばせます。

運動量に関してはなんとなく理解できましたか?

運動量の変化量=力積

そして最初の話に戻しますが
速いショットを打つためにはボールに大きな力積を与える必要があると言いました。

これ、言い換えると、ボールの運動量を変化させることなのです。

ショットを打った後のボールの運動量は、打つ前の運動量よりも大きいことはわかりますね?
だって速度が増しているのだから。(ボールの質量は変化しませんし)

そして、この運動量を変化させる物理量こそが先ほど冒頭で説明した力積になります。

この力積が大きければ大きいほどボールの運動量の変化も大きくなる、つまり速さ(速度)が増すのです。

ここまでの内容をまとめますと
・速いショットを打つためにはボールに大きな力積を与えることが必要
・力積とは物体の運動の激しさを指す運動量を変化させる物理量

力積はどのようにして大きくさせるか?

では次にどのようにして力積を大きくするのかを解説していきます。

力積は加えた力の総量

力積の公式ですが、下のようになります。
力積=力×時間

力積は物体に加えた力の大きさと、その力を加えた時間の積によって決まります。

つまり、大きな力を長い時間かけて加えることで力積は大きくなるのです。

ボールの力積を大きくするには?

力積を大きくするためには力の大きさと時間という2つの変数を大きくすればいいのですが、ラクロスのショット動作の時間を伸ばすというのはあまり現実的ではありませんよね?

というわけで、ボールの力積を上げるために加えるを大きくすればいいのです。

「力」を大きくするには?

この力を生み出しているのは筋肉です。

なのでトレーニングによってその筋肉の出す「力」を向上させていくことが大切なのです。

どんなトレーニングが必要か?

トレーニングは目的があってこそです。

そのトレーニングは筋肥大をするためなのか、筋力をつけるためなのか目的によって何をするべきか変わってきます。

では力積の力を大きくするためには何を目的にしたトレーニングが適切かをこれから説明していきます。

まずは下の図を見てください。力積における力と時間の関係を表したものです。

縦軸が力、横軸が時間、赤くなった部分が力積になります。
この赤い部分の面積が力積の大きさなので、この赤い部分を大きくするためにはどうしたら良いのかを説明していきます。

まずラクロスのショット動作の時間はとても短く限られますね。
この時点で時間の制約が入ります。

時間軸に線を一本引きました。
こちらはラクロスのショットを打ち終えるまでの時間です。

ショット動作の時間を伸ばすことは考えずにここからいかに赤の部分(力積)を大きくするかを考えてみます。

「力」を上げるというのが手っ取り早いですね。

力を上げた場合同じ時間でもピンク分の面積を確保することができて力積が大きくなります。

では、どのよにしてこの力を上げるかですが、グラフの中で注目して欲しい箇所が2箇所あります。

力は単純に筋肉の発揮できる出力なので、青い線で示したように最大筋力を高めることが必要です。最大筋力の差が上の力積の差に現れてます。

なのでウエイトトレーニングなどでより大きい重量を扱えるようになることが大切なのです。

続いてはこちら

青い線で示したものはグラフの接線ですが、スポーツ科学分野では

RFD(Rate of Force Development)と言われます。

つまり、力の立ち上がり率のことです。

この線の傾きが大きいほどRFDは大きく、力の立ち上がりが早いというわけです。
瞬発力があるとイメージすればわかりやすいと思います。

限られた短い時間の中で大きな力を発揮するためにはこのRFDを高めることが非常に重要になります。

このRFDですが、トレーニング経験の浅い方でしたら従来のウエイトトレーニングだけでも伸ばすことができます。

しかし、トレーニング熟練者の場合、従来のウエイトトレーニングでは成長が頭打ちになります。

熟練者がRFDを高めるためにはプライオメトリクスなどの瞬発的な動きをするトレーニングをすることでRFDを高めることができます。

そして、もう1つお話ししておきたいことがあります。

今まで力積を説明する際に使っていた上の図ですが、こちらは時間と単純に力だけに視点を向けたものになります。

しかし、縦軸の力を考える際に考慮しなければならないことが1つあります。

それは、動作スピードです。

なぜ動作スピードを考慮する必要があるか

動作スピードを考慮する理由ですが、筋肉の発揮する力の大きさは動作の速さによって変わるからです。

この理論を図に表したものがこちらです。

こちらの図ですが、左は筋肉の力と速度、右は脚を伸ばしたとき(複合運動)の力と
速度の関係を著したものになります。

図で分かる通り、筋肉が発揮する力は速度、つまり動作のスピードが高くなるにつれて小さくなってしまいます。

例えば、筋トレで重いバーベルを持ち上げる時は動作は遅くなって発揮する力も大きくなってると思います。

逆に軽いものを待ち上げる時は動作も速くなりその分発揮する力も小さくなりますよね?

こんな感じで筋肉の発揮できる力は動作のスピードに依存するのです。

そして、ラクロスで思いっきり速いショットを打とうとした際はクロスを高スピードでふりますよね?

その際、先ほど挙げた力-速度関係を当てはめてみると、動作スピードが速いため大きな力は発揮できないことがわかります。

大きな力が発揮できないと先ほど挙げた大きな力積も獲得することができません。

そのため高い速度領域でも大きな力が発揮できる高速筋力というものが必要になります。

青い部分は高速度域と見なしてます

つまり、青い部分で括った高速度域の力を大きくすることが重要になります。
この力を高速筋力と呼んだりします。

こちらの高速筋力ですが、先ほど挙げたRFDと同じくプライオメトリクスなど瞬発的なトレーニングで向上することが報告されております。

ここまでのまとめ

ここまでをまとめると、力積を大きくするためには以下の3つを高めることを目的としたトレーニングが重要ということです。

  • 最大筋力

  • RFD(Rate of Force Development)

  • 高速筋力

あれ?「パワー」は?
とトレーニングの勉強をされている方なら思ったりするかと思いますが

個人的にパワーというものはスポーツにおいてとても重要ですが、トレーニング効果とパフォーマンスUPとの関係性を説明するには少し難しく感じるため今回は触れませんでした。

パワーについてしっかりと理解したい方はこちらの記事が非常に参考になりますので見てみてください。


運動連鎖からトレーニングを考える

ここまで、ラクロスのショットスピードを上げるための力積と運動量の関係性、力積を上げるためにはどうするべきかを説明してきました。

力積を上げるためには、最大筋力、RFD、高速筋力を上げるためのトレーニングが必要だと解説しましたね。

続いては、また違った視点でトレーニングとパフォーマンスUPの関係性について説明します。

どんな運動をするか?

トレーニングを考えるに当たって、その競技動作を理解することは必要不可欠です。
その競技動作はどんな動きをしてどの筋肉が使われるのかを理解することで強化したい筋肉を見つけ、トレーニングを考えることができるからです。

ラクロスのショット動作は?

ラクロスのショット動作はどんな動きでどこの筋肉を使うのか?

多くの場合、クロスは手で持っているため、それを振り回す腕・肩周りの筋力が必要だと思われるかもしれません。

こちらは何も間違っていませんが、それだけだと不十分です。

運動連鎖という視点

「手に持っているボールを思いっきり遠くに投げてください」と言われたとします。
頭の中で動いてみてください。

おそらく一番最初に動くのは下半身だと思います。

右投げの場合、左足を上げて右足で片足立ちになり、右手を後ろに引いて、そこから左足で踏み込んでから、上半身をひねり、ボールをリリースするはずです。

なんでこのような動きをするのかと聞かれたら、こうするのが一番投げやすいからですよね笑

こんな感じでヒトはボールを投げる動作に限った話ではありませんが、歩く、走る、スポーツのあらゆる動作の中で身体の一部位を単独で動かすのではなく、全身の筋肉、関節の動きを組み合わせて(協調させて)目的とする動作を効率的に行えるようにするのです。

この考えを運動連鎖と呼びます。

ラクロスショット動作もボールを投げる時みたいにまず下半身から動くはずです。
ランシュー、スタンシューなど全部共通して。(ただ試合の状況によっては特殊な場面があると思うので、そこら辺は無視で)

そのため、ラクロスショット動作は上半身だけ鍛えていれば良いという考えでは不十分だというのはよくわかりますね。

どうして下半身から動くのか?

当然、下半身の力を借りた方が動作を効率的に行えるからです。

何せ下半身の発揮できる筋力は上半身よりも遥かに高いので。

では、下半身の力を借りるとはどういうことか説明していきます。

下半身の力を借りるとは?

「下半身の力を借りる」という曖昧な表現を説明するにあたり力学的エネルギーの理解が必要になると思います。

力学的エネルギーとは、運動エネルギーと位置エネルギーを合わせた物理量であり、物体が摩擦など他から何の干渉も受けていない場合そのエネルギーは保存されます。
式で表すと下のようになります。
力学的エネルギー=運動エネルギー+位置エネルギー

これだけだとなんのことかわからないと思うので図で説明します。

上の図はボールを高いところから転がした様子を描いてます。
ボールの動きをイメージしてください。
おそらく一番高いところから転がして下に進むにつれてスピードが上がり、再び上に上がるにつれてスピードが落ちていくと思います。

なんでこうなるのかを先ほど挙げた力学的エネルギーで説明しますと
運動エネルギーは速度の大きさで決まり、位置エネルギーは物体のいる位置の高さで決まり、その大きさは相反し、和は保存されるからです。

つまり下の図のようになります。

①の時はボールは一番高い位置にいるので位置エネルギーはMAXの状態ですね。
そして②にいくにつれて位置エネルギーが減っていき、代わりに運動エネルギーが大きくなっていきます。②は最下点のためこの時運動エネルギーは最大で速度が最大になります。③に行くに従い、位置エネルギーが増えていくため運動エネルギーは減っていき、④になると最初と同じで位置エネルギーが最大で運動エネルギーがゼロになりボールは止まります。

力学的エネルギーをざっくり説明するとこんな感じです。

そしてラクロスのショットスピードを上げるために重要なのは速度を持つ運動エネルギーが重要だということはなんとなくわかるかなと思います。

そして、この力学のエネルギーというものは物体から他の物体に移すことができるのです。

そうです、先ほど下半身の力を借りると述べましたが、これはつまり下半身で運動エネルギーを生み出して、そのエネルギーを下半身、体幹、肩、腕、クロスへと転移させて行き、最終的にボールに大きな運動エネルギーを転移させることがラクロスのショットスピードを上げる鍵となっており、下半身の力を借りるとはそのようなことを指します。

このような運動連鎖によるエネルギーの流れをEnergy flowと言ったりします。

近年のバイメカの研究においては投球動作などでよく研究されるようになってきました。

Energy flowという視点

投球動作では下半身の運動エネルギーを体幹、片腕へと伝達するにつれ速度が上がっていきます。
つまり運動エネルギーが大きくなっていきます。

ラクロスのショット動作もこれと同じことが起こっていると考えます。

図でイメージするとこんな感じです。

時間はショット動作の開始から終了までです

運動エネルギーは速度の大きさで決まるため縦軸の上に行けば行くほど運動エネルギーは大きくなります。

このようなEnergy flowの視点で見ても下半身や体幹の機能不全(筋力不足、柔軟性低下など)はのちの運動エネルギーの転移に悪影響を与えてしまうため、肩腕周りを鍛えるのみじゃなく、その土台となる下半身や体幹も重要となってきます。

まとめ

以上が、タイトルにあるようにトレーニングがどのようにスポーツのパフォーマンスを上げることに貢献するかを説明した力学的基礎になります。

本記事の内容をまとめると

  • ラクロスのショットスピードを上げるためには力積を大きくすることが必要

  • 力積を大きくするためには最大筋力、RFD、高速筋力を高めるのが重要

  • 下半身や体幹のトレーニングも運動連鎖の視点で見て重要

こんな感じになります。
本当はトレーニングの細かな内容も書こうと思ったのですが、量が膨大になり終わりが見えなさそうだったので今回は諦めました・・・

長くなりましたが、ここまで呼んでくださってありがとうございました。
最後まで読んでいただけたらトレーニングに対する見方も少し変わったと思われます。

本記事が皆様のお役に少しでも立てれば幸いです。

PS:
3月から個人事業主として活動していくため、トレーナー関係者様は縁がありましたら、一緒に仕事ができたり、お会いするのを楽しみにしております。







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