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ずぶ濡れのご先祖様

私の祖母はすでに他界している。祖母は兄が1人と弟が5人いた。一人だけ女だった。一番上の兄は第二次世界大戦で戦死していたので、戦後からずっとみんなから「ねえちゃん」と呼ばれて頼られていた。

これは祖母の弟が実際に経験した話だ。

私の祖母は結婚したので、本家からは離れている。同じお寺にお墓があるけれども、本家とうちのお墓は別々に立っている。本家のお墓には戦死した兄弟の一番上のお兄さんも入っている。つまり祖母の母も父もみんな本家の墓に入っており、私の祖母と祖父のお墓とは別のお墓に入ってる。

これは祖母も祖母の弟たちも生きていたころの話だ。本家と祖母の家は歩いて10分くらいで着くので、祖母は時間があるとよく本家に遊びに行っていた。

ある日、本家に遊びに行った祖母は弟から変な話を聞いた。
「ねぇちゃん、きもちわりぃ話があるんだよぉ。聞いてくれるか?」
と弟が言う。私は東京の下町の出身で、祖母や弟たちもずっと東京で、しゃべり方は江戸っ子そのものだ。

「何?何の話よ?」
「父ちゃんがさ、ずぶ濡れで、夢に出てきてなんか怒ってんだよ。おれさ、怖くてさ。死に装束っつーの?白い着物着てさ、怖い顔してなんか言ってるんだけどさ、声は聞こえないんだよ」
「あんたなんか悪いことでもしたんじゃないの?」
弟はかつて競艇にどっぷりはまって大きな借金を作ったことがあった。
「やだなぁ、ねえちゃん。そんなんじゃねーよ」
そのときは気持ち悪いねぇって話で、ふたりで本家の仏壇に手を合わせておいた。

またしばらくして弟から電話がかかってきた。
「ねえちゃん、おれおっかねぇーよ。」
「なに?まだ父さんが夢に出てきて怒ってるの?」
「いや、そうなんだよ。またずぶ濡れでさぁ、苦しそうな表情で何か言ってるんだよ。でもやっぱり声は聞こえてこないんだよ。けど、こう両腕を上に突き上げてもがいてるみたいな、、、」
「なんだよ、それ。きもちわるいねぇ」
「なんか起きるんじゃねぇかって思っておれおっかなくってさぁ。ねえちゃんにしか話してねぇーんだけど、どっかお祓いとか言ったほうがいいのかな」
「あんた、自分の父親の霊をお祓いしちゃうのかい?それはだめだよ!」
「ねえちゃん一緒にお墓参りいかねぇか?おれ一人じゃ怖くてさ」
「わかった。」

私たちの家族はお盆やお彼岸にはもちろんお墓参りに行く。それ以外ではあまり行くことはないのだが、祖母は弟があまりにも怖がってるから、散歩がてらいくかと、二人でバスに乗って自宅から20分くらいの場所にあるお墓まで一緒に歩いて行った。

うちの家族たちは、お墓に行ったときはまず、本堂に寄って本堂でお線香を購入する。その後、お水を手桶に入れてお墓に向かう。この手順は本家も同じだ。二人は本堂に言ってお寺の人に声をかけた。

「あら珍しい。どうしたの?」
法事などでもよく会うご住職の奥様がびっくりした表情をして出迎えてくれた。
「ご供養していただいてるお寺なのに、こんなこと言っていいのか分かんねぇけどさ、いやぁ、実はさ、、、」
夢にずぶぬれの父親が出てくること、苦しそうにしていることを話した。
すると、ご住職の奥様がこう言った。
「もしかすると、お墓に何かあったのかも。前にも同じようなことを言ってお墓参りに来た人がいたの。そのときはお墓が台風で浸水しててね、骨壺が置いてある場所に水が入り込んでたのよ。ほら、この前、台風来たじゃない?ちょっと見に行こう」

ご住職の奥様、祖母、祖母の弟で本家の墓を見に行く。
「あ、ここ!」
住職の奥様が指さした箇所を見てみた。
お墓は石でできている。その石と石の間の隙間を目地(めじ)と呼びその目地はコーティング剤で埋められており、雨風から水が中に入ることを防ぐ目的がある。

住職の奥様が指をさした場所は骨壺が置いてある内部につながる蓋のような場所なのだが、そこの目地がだいぶ劣化しており、水などが中に入るようになっていた。

後日、業者を呼んで骨壺を置いてあるエリアを開けてみたところ、中にあった祖母と弟の父親の骨壺の置いてあった場所が、ちょうどその目地が劣化して水が入る場所であり、他の骨壺は濡れてもいなかったが、その父親の骨壺だけびしょびしょで、お墓に付着していた土などの汚れも入り込んで汚れていた。

「父さんこれを伝えたかったんだな。わるいことしちまったな。」
その後、祖母の弟はお墓の目地の補修をして、水が入り込まないようにしたそうだ。

その後、びしょ濡れのお父さんの夢は見なくなった。

お墓というのは、メンテナンスが重要だなと思った。みなさんも次にお墓参りに行ったら、お墓をよく観察してみてほしい。

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