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ものを作る(CDを作るぞ)

ものを作ることがアーティストの仕事だ。画家は絵を書く。作曲家は曲を作る。演奏家はコンサートを「作る」。CDや動画などを「作る」。

クラシックギタリストだって、ものを作る。コロナ禍のひきこもり期間中に演奏家たちは一気に「ものづくり」に目覚めた。その一番はyoutubeに動画をアップすることだろう。各自、工夫を凝らした内容をアップしていて、僕も友人たちの動画をみて、へえ、こういうアプローチもあるのねえーなんて面白がっていた。

残るものを作る

僕はどっちかというと、ものを作るって場合はムッチャクチャこだわりたいのだ。音質、編集。あれやこれや。

残るものを作るっていう意識の方が大切で、そうじゃなければ「撮って出し」くらいでいいと思っている。内容に意味があればそれなりに見てくれるであろうと。

基本的に繰り返し聴いてもらいたものを「然るべきクオリティー」で作るって所にこだわりたい。だから、自粛期間中は音源録音に精を出した。4月は武満徹の「うた」全集。

実は秋に自分のソロ二作目の録音も終えている。

録音の準備には時間がかかる

4月に行ったレコーディングには布石がありました。2018年から定期ライブで日本が生んだ大作曲家武満徹さんが残した「ポピュラーソング」を数曲ずつ演奏しようよという企画がありました。

だから、数曲ずつ数ヶ月スパンでアレンジできたし、歌を仕込むことができた。で、2019年に全21曲を一晩で演奏するというライブが実現。そこから「音源を残したらどうだろうか?」「このライブをCDで聴いてみたい」という周辺の勧めがありました。で、コロナやばーい!と言われ始め、一般企業もコロナ自粛に入った頃に、空いているホールでレコーディングしませんか?というオファーがあったわけです。

あとはレコーディング用の仕込みすれば、まあオッケー。こんな時期なんでシンプルに出来るだけすっきりとレコーディングしてしまいましょうーというノリで。スポンサーも実はついているので、そのあたりも調整。

CDが一枚できるまで

ちょっと前はレコード(LP)で、今はCDや配信だろう。ある作品を世の中に出す方法はたくさんある。もちろんyoutubeに動画とともに良いクオリティーでアップして宣伝するっていう方法もある。

だけど、「もの」っていいんですよ。実物の良さがある。ジャケットをどうするかーとか。ライナーとかどうするの?とか。手に取ってもらえるものを作る。

これが僕にとっての「ものを作る」ってことなんです。

その過程にはいくつかやらなきゃいけない作業がある。

どこからリリースするか?

セルフプロデュースか誰かにプロデュースを頼むか?

スポンサーをつけるか?

ジャケットのイメージは?

曲順や選曲などどうする?

どういう手順で録音をするか?

いろんなことを考えなきゃいけないんです。もちろん前提としてある程度売れるものを作らんきゃいかんのですが、それは後回しでもいいというのが僕の持論。演奏者として「これは残しておきたい」「いろんな人に聴いてもらいたい」というものを作らなきゃね。

「いろいろな人に聴いてもらいたい」=「聴いてもらうべき作品である」というのも大切。もちろんスタンダードなものやたくさんの人が録音しているものを収録しても良いとは思う。特に駆け出しのアーティストは自分の名刺がわりに定番を収録したりするのは良いことだと思う。

まあ、でも、僕も流石にプロ活動20年だからねえー。みんなが収録しているようなものを録ってもしょうがないので。

プロデュース力

レーベルがついていようがいまいが、アーティスト側が演奏楽曲については知識が深い。イメージを持っている。もちろんレーベル側に優れたプロデュース能力を持っている人間がいる場合は、たくさんのアイデアを提供してくれるだろう。

だけれども、基本的には今の時代はアーティスト本人がセルフプロデュースしなくてはいけない。どういうアルバムにしたいのか…どういう意義があるのか…そういうことをひたすら考える。考えていけば、アルバムのコンセプトが決まる。

このプロデュース能力に関しては、今までCDをたくさん作ってきたけれど、やっていくうちに養われているものだと思っている。

根本は「ものを作る」の意味と、それを世に出すことの意味が客観的に見えているかどうかってことだと思う。それがわかってくれば、作品は「自己顕示欲」の塊から、商品になっていく。

自己顕示欲と客観性

どこまで行ったって、ものを作るってところにはアーティスト自身が入り込む。その人のセンスや好きなもの。それが入ってしまう。だから自己顕示欲の塊で良いのだ。だが、そこから商品にしていく過程で、受け取る側のことも考えなくてはいけない。そして、スポンサーやレーベルがあるのであれば、その意向も汲み取りながら、客観性を持った「もの」へと仕上げなければないのだ。

先にも例に出したが、「俺はこれが弾けるから、この曲を入れる」というのは、デビュー盤であれば、オッケー。それは名刺だから。それでも、数年に1枚くらいはこれは良いプロデュース能力持っているものだなあーというでデビュー盤に出会うことがある。おそらく、そこには自己顕示欲を持ちつつ客観性を備えたアーティストの姿がある。

「残るもの」とは?

CDは残るものなのだ。2014年に出した池田慎司くんとのデュオアルバム「Circulation」がある。このアルバムは今でも「よく聴いています」という感想をいただく、(自分で言っちゃあなんだが)名盤だ。

このデュオはすでに数年間に渡って定期的に演奏活動をしていた。しかし、レコーディングでは結構難航したのだ。「録音物」として我々が演奏のディテールを考えていなかったからなのだ。ディレクター兼エンジニアの小坂氏の導きで良い方向に向かって、結果としては綺麗に録り終えた。

何度聴いても「全ての音が丁寧に聴こえる」録音物となっている。ここから僕はたくさんのものを学んだ。自分でもプロデュース感覚を持たないとなあーと。

もう一枚紹介しておきましょう。

これはスペイン留学組5名による完全セルフプロデュース盤。トリオと5重奏という謎編成。だけどきっちりとスペイン音楽アルバムとなっている。

実はこのアルバムを出した時点で、ほぼ全員がCDリリース経験者なので、各自のプロデュース能力が発揮されている。ジャケットデザインからライナーまで。ライナーは僕が担当したのだけれども、文字情報でどのくらい「スペイン音楽の多様性」を感じてもらえるかということに全力投入。

自主レーベルなので、プレスから流通まで全部自分たちでやっている。このグループでは来年海外公演のオファーも来ている。CDが録音されて、そこからプレスされて、宣伝からレコ発演奏会まで全部セルフプロデュース。5人いるので、役割分担してやれて、それぞれが的確に動いてくれた。

コンセプトは「ほれ、こんな面白くてかっこいいスペイン音楽あるぜ!」って感じ。みんなその辺りは一家言ある。そんなメンバーだから、ブレない。セルフプロデュースの名盤とも言える 苦笑。

阿呆みたいに「こだわる」

ものを作るときに「阿呆みたいにこだわる」って大切なのだ。こだわることなく作られちゃった駄盤も多い。最近、よく若手のデビュー盤的なもので「演奏会と同じような雰囲気でそのまま録れました」みたいなものがあるが、それなら演奏会に行った方がまし、、、なのである。そのレベルであれば、自主制作でCD-Rで焼いて出した方が音質も実はいいし、安上がりです。

レコーディングの音質や立体感、造形にこだわればやはりプロのエンジニアに任せて、ホールでガッチリと音像を固めて録った方がいい。

その「こだわり」満載で録ったのが、これ。

おかげさまで諸方面で好評。その音質、無駄にこだわりました。マイクセッティングだけでほぼ1日。試し録りをして、聴いて、修正。ケーブルも変えたり、ホールでの演奏角度を徹底してこだわりぬきました。

その様子はこの辺りにも記載があるので、ぜひお読みくださいませ。

もう、大変ですよ。レコーディングって、、、へこたれませんでしたけど。これがキャリアスタートしたばっかりと若手ギタリストだったら、へこたれちゃってるだろうなw

音作りはやっぱり「こだわり」なんですよね。近接の音とホールで聴いている音をミックスしたいっていう。贅沢だなあー。だから爪が弦に触れる音からそれが空間を抜けていく音までが収録されています。

プログラムも、僕の20年を凝縮したような内容に。その意味では自己顕示欲の塊w だけど、バランスが良いのは「イマジナリーなギターサウンド」を追求したからだと思っている。このアルバムを聴いて、僕自身、「ああ、俺ってこういう人間だったのだなあー」と再認識しました。

コロナ禍的ジャケット

客観性を持ったものを作ることがとても大切。だって残るものだから。内容も普遍性を持ったもので。今までになかったものを。ということで、2020年4月にレコーディングしたものが、紆余曲折をへて、11/25に発売されます。

企画盤なのですが、コロナ禍真っ只中で録音された「歌」の盤っていうのは、とても意義があるように感じています。ギターと歌のアンサンブルですから、とってもインティメット。実はジャケットもソーシャルディスタンス感溢れるものになっているんですよ。

その意味では、今の時代にこういうアルバムを出しておくってことが大切ですし、そういう意味づけをしたいと思っています。軽めのセルフプロデュースです。

武満徹さんの「うた」を全て収録したものは世界的にも数枚しかないですから、その意味でも意義のあるものです。ギターと歌というシンプル編成のものは、世界初ですし。

再び〜残るものを作る

残るものを作った方がいい…そういう風に思います。数年後聴いても「お!いいんじゃないか?」と客観的に楽しめるもの。そういうものを作りたいと思っています。

毎回思うのですが、やはり作品って、こだわればこだわるほど良いものが作れるのです。だから、細部にこだわりたい。そして細部にコンセプトが有機的に繋がる瞬間を楽しみたいのです。

良いスタッフと仕事できるのは本当に嬉しいことなんです。エンジニア、レーベル主さん、デザイナーさん、カメラマンさん、スポンサーさん…コンセプトを共有し、それを明確にしてくれるスタッフさんと「ものを作る」ことは、とーーっても大変な作業なのですが、いつでも楽しい。

それが仕事なんだなあーって思うんです。



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