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井の中の蛙 大海を知り 大空を舞う

幾千年の昔、深い山奥で山火事が起こりました。そして、山に棲む動物達、魔物達は次々と焼け焦げ死んでいきました。

そんなこともつゆ知らず、焼け野原の中に1つ、異質として構える小さな井戸の中にいる一匹の蛙は、熱さに悶えることもなく、逃げ惑うこともなく悠々としていました。
その蛙は、この世に生まれ落ちたその瞬間からずっと井戸の中で暮らしてきました。なので、井戸の外の世界を全く知りませんでした。
蛙の隣で愉快に泳ぐメダカは言いました。

「おい蛙。ここ最近ずっとあの大空を眺めているな。飽きないものか?ずっと同じ景色なんだぜ」

蛙は答えました。

「私は井の中の蛙である。外の事は何も知らない。だが、空の深さは知っている。」

ここから抜け出したい。…と、そう言う蛙をメダカは嘲笑し、言いました。

「何を言っているんだ。夢見るなよ。飛べやしないんだ。俺達は一生この苔まみれの汚ねえ井戸の中で生きていくしかないんだ。」

しかし、このメダカの言葉を一言一句余す事なく蛙は聞いてませんでした。その間も、蛙の瞳は絶えず、不断にその大空を捉えていたのです。そして、蛙はその小さな口で、小さな体で、小さな井戸の中で、大きな願いを口にしました。

"大空を羽ばたきたい"

その刹那。蛙の体を、何重もの丸い光の粒が覆いました。そして蛙は天高く舞い上がりました。驚いた蛙は何か背中に違和感を感じました。見てみるとそこには立派な翼が生えていました。まるで、自分が誕生したその瞬間からずっと共に過ごしてきたのではないかと疑うほど自然な感覚でした。

「ああ…。外の世界だ。とてつもなく大きい世界だ。どこにも壁など見当たらない。どこまで進んでも行き止まりがない。…私は諦めなかった。無駄だと言われようとも大空を夢見た。そんな私を憐んで救ってくれたのか?」

ありがとう。名も知らぬ誰かよ。

そう言い残し、しばらく進んでいると、大きな海が見えてきました。蛙ははにかみ、それから蛙はその命を全うするまで世界中を旅して暮らしましたとさ。

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