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【メン限小説】未確定のドリームツアー

以前サークルの私用で書いた楽しげな推理小説です。12,000字程度

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 二十分。たとえば、二十分で殺人事件の現場を捜査して犯人を特定しろと言われたら、まぁ基本的にはどんな刑事でも、あるいはどんな探偵でも、こんなの付き合っていられないよ、と匙を投げて放ることだろう。しかしこれはあくまで彼らが職業人だからという話で、ええと……、何が言いたいかというと、そんな無理難題を突きつけられても文句を言わない立場というのも、この世にはありうる。

 つまり、学生。
 中でも、どんな事件も瞬時に解決してしまう最速探偵に憧れる学生とか。

 というわけで、そう、いよいよこの状況のことに限って言うのであれば──高校の文化祭でのミステリ系出し物に参加している場合とかは、制限時間が短くても、まぁ、文句は言わないだろうね。という話を今回はしていくのだ。
 文句は、言わないんだけど。

「しかし、あれはちょっと……、もう少し推理する時間があってもよかったと思うんだよな、降田おりたはしがきさん」

 とか。
 僕はわざとらしく、フルネームで目の前の彼女を呼んでみせた。

「ふうん。まぁ、坂田くんがいくら言うところで、本当に難しい推理ゲームなのかは怪しいと思うけれど」
「言ってくれるね、かなり」

 長い黒髪とたいへんな童顔、あと低くも高くもない背丈。一見釣り合わない外見の諸要素がそれぞれ奇跡的な噛み合いを見せ、何とか美人として成り立っている変人。それで、あといちおう僕の友達。それが、降田序という、この愛すべきクラスメイトの名前だった。

 戸籍上、本名らしい。

「言っちゃなんだけど、僕、坂田くんのことはあまり信用してないからね。ああ、いやそういう意味じゃなくて……、もちろん友達としては素晴らしい人をつかまえたものだと思っているよ? でも、ぶっちゃけ、ミステリ的にはちょっと……」
「『ミステリ的にはちょっと』って、お前な」
「だって、いま坂田くんがここにいるのだって、畢竟、その出し物の謎が解けなかったからなんだろう? 一緒に回っていた好きな人にいいところを見せようとしたら案の定その謎の堅牢さに惨敗して、しかもその子はこれから別の友達と回る予定があるからって坂田くんから離れ、結果として居場所がなくなりここに戻ってきた──っていう、ダサい遍歴は、さっき自分で教えてくれた通りじゃないか」
「……ぐ」

 決してそんなに赤裸々には言っていないのだが、概ね言っていることは正しい。僕が降田のところにやってくるまでには、そういういきさつが、確かにあった。

 ここは僕たちのクラスの教室。生徒全員があまりに文化祭へのやる気を持っていなかった弊クラスは、展示物を設置する許可取りなどの手間などを鑑みた議論の末、何も出し物を作らないことになったのだった。

 で、そのため、この教室はいま 、僕たち用の荷物置き場になっているというわけだ。そこに降田がいるとわかっていたのは、文化祭に興味のない彼女が、教室から出ないことをあらかじめ宣言していたからである。

「まぁ」

 とはいえ、と。
 降田は机に置いていた本を通学鞄にしまった。

「むしろ、予想より遅かったくらいではあるよね。謎解きの苦手な坂井くんが、こうして僕の下まで泣きついてくるのは、最初から想像に難くなかったからさ」

 立ち上がって移動を始めた降田に戸惑わされながら、問う。

「え、じゃああの教室に行ってくれるってことか? というか、まさかずっとここにいたのって……」
「いやいや、勘違いしないでよ。僕はそんなに坂田くんのことが好きなわけじゃないよ? 文化祭を回らなかったのは、単に人混みが苦手だからさ。でも、まぁ、そういう話が来たんだったら、気晴らしにはいいかなと思ってね」

 降田は笑い混じりにそう言った。

 釈然としないまでも、ついていく。廊下に出ると、一気に喧騒と人通りが大量の実感を伴った。こういうのが苦手で、降田は教室に留まっていたわけなのだろうか。

 さて。
 問題の二年三組は、一つ上の階にある。

 

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