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ゆうれいのはな1

 病院の待合室、次から次へと呼ばれる言葉の中に私の名前はまだない。昼下がりの明るいベージュが待合室を包み込んでいて、普段なら順番が回ってこないことに苛立ちを感じるところだけれど、今日はもう予定もないし、ただただ漂うゆるやかな空気に身をまかせる。
 看護師さんはよく通る高い声で知らない人の名前を呼ぶ。カワグチさん、ヒラタさん、コンドウさん。小学生の時に一回だけ同じ班になったカワグチノブオくん、小6の時に放送委員で一緒になったヒラタさん、大学で可愛いと噂だったコンドウユリちゃん、呼ばれる名前を聴きながら過去に出会ってきた人たちの顔を思い出して記憶を辿る。

 突然目の前に現れた女の子はあまりにも青白い肌で一瞬幽霊か何かかと思った。小さなピンク色のウサギを持った少女は、不健康な肌とは正反対の力強い視線を私に投げかける。

「どうしたの?迷子?」

私が聞くべき言葉を投げかけられて、咄嗟に返事ができなかった。私の、自分より年上の私の何をみて、迷子なんて言ってるんだろうか。姪っ子と同じくらいだから、小学2年生くらいだろう。待合室にいるたくさんの人の中で、どうして私を選んで、そんな問いかけをするのだろうか。ぐるぐると思考はめぐるが、とにかく何か返さないとと思い返事をする。

「迷子じゃないよ。順番を、待っているの。あなたは?迷子?」
「ずっとここにいるから、迷子じゃないよ。もうずっと退屈だから探しているの」

要領を得ない少女の返答に戸惑っていると、じゃあねと手をあげて彼女は待合室の奥の廊下へと消えていった。

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