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呉服業界と和装履物業界は別である

最近、気付いたことがあります。
草履や下駄など和装履物は、着物まわりの小物とひとくくりにされているのだ、ということ。
呉服屋さんでは、反物に並んで帯締めや帯揚げなどと一緒に草履や下駄を置いてあったりしますから、世間では履物も呉服屋さんで買うものと思われているようです。
想像してみてください。日本中から靴屋さん、そしてデパートの靴売り場がなくなったら、どこで靴を買いますか?
ブティックやセレクトショップに置いてある何種類かの靴の中から探すしかないですよね。
履物専門店がどんどん減っている今、和装履物の状況はそうなりつつあります。

呉服屋さんにとって、履物は付属品

当然のことながら、呉服屋さんは着物の専門家です。
着物や帯の知識を持っていても、履物についてはあまりご存じない。草履、下駄、雪駄について細かい部分まで正しく答えられる呉服店は少ないと思います。百貨店の呉服売り場も同じです。

先日、有名人・著名人を多く顧客に持つ某有名呉服店から、本格的な畳表の雪駄を修理してほしいという依頼がありました。
その呉服店がどこかの問屋から仕入れた雪駄なのですが、急ぎの修理だったため問屋やメーカーに戻す時間がなかったようです。
都内だったので、30分程で呉服店の店員さんがみえて、その雪駄をその場で修理したところ、とても感謝されました。
その際、雪駄や草履について、呉服店の店員さんからいろいろ質問されたのですが、履物についてあまりに知識を持っていらっしゃらないことに驚きました。
「やっぱり、呉服屋さんって履物のこと知らないんだな~」

専門的な知識を持っていないから
履物の良し悪しがわからない

昔は履物専門店が各町々にありましたから、呉服店が草履や下駄を売ることはなかったのですが、今は全国的に履物屋さんがある町の方が少ないので、必要な時はどうしても呉服店や百貨店で買うしかない。
履物について専門的な知識がない呉服屋さんは、草履の良し悪しもわからない。
価格を抑えるために鼻緒裏や台の底裏など見えない部分で酷い素材を使っていたり、鼻緒の挿げ方が手抜きの草履、私たち履物専門店が見ればすぐわかるのですが、呉服屋さんには区別がつかない。
そうして和装履物について、間違った知識が流布してしまうのです。呉服店で説明されたらお客さまが信じてしまうのは当然ですよね。

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なぜ職人が挿げる草履・下駄が良いのか

昔ながらの和装履物の履き心地の良し悪しは、鼻緒を挿げる技術しだいです。そのため挿げ職人がいない場合、お客さまそれぞれの足にフィットさせるのは難しい。
だから呉服店や百貨店の呉服売り場では、挿げ職人がいなくても売れる草履をおすすめされることが多いと思います。
スニーカーやサンダルと同じように、最初に足を入れた時の感覚だけなら、それでもいいかもしれないのですが、鼻緒のある履物は、鼻緒が緩んでしまったら履きづらくなるものなのです。
鼻緒挿げ込みの和装履物は、鼻緒の調整ができないので、何度か履いて鼻緒が緩んでくると、履き心地をキープすることはできません。
結果的に鼻緒を調整できない和装履物は、使い捨てとなってしまいます。

呉服屋さんは、履物屋さんで草履を買わない

呉服店で働く人たちは、問屋やメーカーから仕入れ値で買うので、私共のような履物専門店にわざわざ来ることはめったにありません。
着物のプロであっても、専門店の挿げ職人に鼻緒を合わせてもらうという経験がない人が多い。
だから当然、お客さまにも履物のデザインとか素材のことしか伝えません。
もちろん履物に関しては、お客さまに専門店を紹介して下さる呉服屋さんも中にはいらっしゃいます。
先日は浅草の某呉服店のスタッフの方々が、仕事で履く草履や雪駄をうちで誂えてくださいました。とても履きやすいということで、以来、履物をお探しのご自身のお客さまには、うちをご案内してくださいます。
染めや織り、産地や職人など着物に関して知識豊富な呉服屋さんにこそ「専門店で履物を誂える違い」を体験していただきたいものです。

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着物は呉服屋さん、草履や下駄は履物屋さんで!

私の経営している辻屋本店では、鼻緒が伸びて履きづらくなったら再調整し、その他修理も責任をもってメンテナンスします。
素材、仕立ても細部までこだわった履物を作ってくれる信頼できるメーカーに発注していますし、耐久性やお手入れ方法もご説明できます。
いくつものメーカーや職人とお取引きがあるので、履物の種類や作り方に合わせて得意なところに注文しています。
呉服店の場合、たいてい問屋を通すので、細かな発注はできないことが多いと思います。
呉服店さんでしか履物を買わない、カレンブロッソしか履いたことのない人々が増えれば、和装履物文化は消滅してしまいます。
伝統的な日本の履物文化を守るためにも、今後も頑張って発信していきたいと思っております。

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