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小説(ショートショート)「砂漠とリンゴ」

今月のテーマは「漂流」です。
良かったら読んでください。


砂漠だ、目の前の砂の海を見てそう思った。
視界は広い、晴れわったった空には雲ひとつなく、遥か彼方まで砂に覆われた大地しか見えない。
間違いなくここは、砂漠だった。

どうして砂漠に来ようと思ったのかその理由はどういうわけか判然としない、特になにか嫌な事があったとかそういう訳でもないのだ。
ふとある日、砂漠に行こうと思いたったのだ。
砂漠に行こうそう決めた時イメージしたのは何故かアフリカやチベットではなくアラブの地というイメージだった。
自分の中にアラビアンナイトの物語が刷り込まれていたからかもしれない。
飛行機を乗り継いで、目的地ある国へ降り立つと現地のガイドの案内と車でこの砂漠へ連れて来てもらい着いたのがこの砂漠である。
帰りの時間を伝え迎えに来てもらう約束をしてからガイドとは別れた。
砂漠で一人になってみたかったのである。
目印になるようにとガイドから立てる旗を借りてこの旗が見えなくなる場所には行かないように念を押された。
私は、旗が見えなくならないように気をつながら少しずつ行動範囲を広げた。
そうして、2時間もたとうかという頃どこかで水の流れるような音がした。
こんなところに水があるのか?
幻聴だろうか?
いや、確かに聞こえる。
喉は乾いていないし、水筒にもまだ半分以上の水が残っているからそこまで水を欲していた訳でもないのだがなんとなくその音が気になってその音のする方へ歩いて行く。
水の流れる流れる音は次第に大きくなって、もうこんな近くに音が聞こえるのだから水の流れが見えないとおかしい、砂を少し掘ってみようかと考えて立ち止まるとふと、水の流れていた音が消えた。
不思議に思い、足元の砂を軽く掘ってみたけれどあるのはただサラサラとした砂ばかりで湿り気のある土すら見つけられなかった。
やはり幻聴だったか、どうかしてるなと思いそろそろ帰ろうと目印の旗の場所を目指す事にした。
あの、砂の丘を越えれば旗が見えるはずと元来たところを戻ったはずなのだが目印の旗が見当たらない。
辺りを見渡しても一面の砂の海で、旗らしきものも全く見えない。
うーん、困った。闇雲に歩いても体力を消耗するだけだし目印であった旗の場所からそこまで離れた記憶もないからこの場所にとどまった方が安全だろうきっとガイドが捜索してくれるはずと待機した。
小1時間がたとうとしている、迎えは来ない。
途方にくれるのだが、焦燥感はなかった。これが自分の来たかった砂漠の風景だな風の匂いも丁度良いなんてぼーっと考えていた。
しかし、そろそろ自分も動いた方が良いか水筒の水も心許ないしと考えた時、
「ねぇ、リンゴの木を知ってる?」
と声がした。
少しビックリして振り返ってみるとそこには小山羊がいた。
「えっと、いま私にしゃべりかけたのは君かい?」
不思議な事もあるものだと思いながら問いかける。
「そうだよ、ねぇリンゴの木って知ってる?」
と子山羊は同じ事を聞いてくる。
「知ってるよ。果物の木だね。」
戸惑いながらも答える。
「うん、お願いなんだけどリンゴ木を描いてよ。」
と小山羊。
「ああいいよ。ちょっと待ってね。」
携帯していた荷物からメモ帳とペンを取り出すと適当にリンゴの木を描いて渡した。
小山羊はそれを少し眺めると、ムシャムシャとそれを食べて
「違うもっとたわわに実がなってるのを描いてよ。」
と言う。
「そうかい、わかったよ。」
今度は出来るだけ大きな実をつけているリンゴの木を描いた。
小山羊は、それを見てからまたムシャムシャと絵を食べて
「美味しいそうな、リンゴだったでもこんなリンゴの木しかないところなんてないや。まわりの景色も描いて。」
「そうだね、そしたらもうちょっと時間がかかるよ。」
と私は本腰をいれてたわわに実ったリンゴの木を中心にまわりの風景も描いた。
小山羊はそれを見てから
「そうそう、こんな感じ素敵なところだね。」
そう言うとその絵を
ムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャ…
食べているのだが今回は咀嚼が長い。
ムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャ…
それを見ていた私は少し眠くなってしまい少し微睡んだ。
「ねぇ、起きて。良かった帰って来れた。ありがとう。」
そう声がして気がつくと周りの景色がいっべんしており先程描いたリンゴの木のイメージのような場所になっている。


「こ、ここは?」
驚いて周りを見渡す私。
「うん、ここがリンゴの木のあるところだよ。帰って来れて良かった。ありがとう。」
「どうやってここに?君が連れて来たの?」
「どうやってって?絵を描いてくれたからだよ、それにそんな事どうでもいいじゃないか今ここにいるそれが素敵で大切な事だろう。」
「はい、これお礼だよ。食べてみてとっても美味しいから。」
見ると目の前に赤く大きなリンゴの実があった。
私は小山羊の言葉に感謝の気持ちが溢れました。私はそれを取り、一口かじってみました。その瞬間、口の中に広がる甘みと新鮮な味わいに驚きました。これほどおいしいリンゴを食べたことはなかった。
「本当に美味しい!ありがとう。」私は笑顔で言いました。
小山羊も柔らかい表情で答えました。「どういたしまして。君が描いた絵が現実になったんだ。砂漠には奇跡が起こることもあるんだよ。」
私はそのリンゴの味わいに、すーっと日常でどこか不安に思っていた気持ちやザワついた焦燥感のようなものが消えていき、心地良い静けさと平穏を感じ、目を閉じてその味わいを堪能していると。
「もうお別れだね。」
そう小山羊の声がしました。
その声にめをあけるとそこは元の砂の海、荒凉とした砂漠でした。
眠ってしまったのかな?でも妙に現実的だったなあ。
帰ろう。 
改めてそう思い、辺りを見渡すと先程はあれほど見つからなかった目印の旗を見つけた。

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