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映画レビュー:『花束みたいな恋をした』(2021年)

〔作品を鑑賞した後に読まれることを推奨します〕

坂元裕二作品に最初に触れたのは確かドラマ『カルテット』からだったと思う。坂元作品のファンとしては歴が浅い。NOOB、新人、ニワカではある。

独特なセリフ回し。淡々として感情を押し殺したところに、むしろ、感情が滲み出してくる。滲み出さざるを得なかった感情とも言える。そこに坂元作品の魅力が端的に表れていると思っている。抑制と破綻のバランスが堪らないのだ。

今作の予告ツイートをTwitterのタイムラインで見かけた時、最初は坂元作品と気づかなかった。テレビ局が企画する、よくあるつまらない恋愛ものの一種かと思った。有村架純がヒロインというと、どうにも安っぽく感じてしまって。

しかし、そんな印象も覆してくれるのが坂元裕二だと、コロナ禍で足が遠のいていた映画館に久しぶりに行ってみた。

『モテキ』を彷彿とさせるような「サブカルあるある」、暗号のように散りばめられた作品群。小説、マンガ、音楽と、どれも「分かる人には分かる」類のものが取り上げられている。

主人公とヒロインは「分かる人には分かる」ものを共通して好むことから恋に落ちる。その馴れ初めもまた「サブカルあるある」だと思う。サブカルに傾倒しながらも関わる女性の多くが一般女性だった『モテキ』に比べると、その点でよりリアルなサブカル感が提示されているように思えた。

偶然にもお揃いのジャックパーセルのスニーカー、ファミレスで始発を待ちながら共通の好きなものを互いに探り合う若い男女。ボーイ・ミーツ・ガールの典型的な物語だ。

話の筋としては極めてシンプルで、出会った、付き合った、別れた、それだけ。物語を追うだけならば、知り合いの恋愛話を聞かされるように退屈に感じるだろう。

しかし、シンプルな物語に何重にもレイヤーが重ねられ、二人の男女にまつわる状況が立体視されてくる。イルミナティー・サインのように各所に隠された暗号が、これはあなたの物語なのだと告げる。

あなたの、恋の、生活の、カルチャーの、生まれては死んでいく、螺旋状の構造で作品は成り立っている。

一方で「サブカル鎮魂歌」を思わせるような、カルチャーの終焉を描いている作品とも思う。先日、トランプ支持や差別的な言動で町山智浩とやり合った菊地成孔のラジオ番組「粋な夜電波」が終わったのだと、主人公は恋が終わった後に相手のこととともに回想する。

ここ数年のサブカルチャーの衰退が物語に重なって見えるのは、自分自身がそのような世代にあたるからだろうか。恋は終わったとしても、その過程は美しく、甘美で、花束のようなものだと、そんなメッセージが作品には込められている気がした。若い頃に夢中になったカルチャーもまた同じく。

この作品を観て、20代なら現在を感じ、30代ならリアルで、40代なら懐かしく思うのではないか。

多面的で多層的な、よくある恋の物語だ。

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