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【春秋一話】 7月 「安いニッポン」いつまで続く

2021年7月19日第7101・7102合併号

 2020年度の国の税収が想定を5兆円超上回り、過去最高の60.8兆円程度に達することが明らかになったと最近のニュース報道があった。これまでは18年度の60.4兆円が最高で、これを2年ぶりに更新するという。
 新型コロナウイルスの影響が懸念されたが、製造業など一部企業の業績が好調で法人税収が伸び、19年10月の消費税増税の効果が年間を通して出たことも税収全体を押し上げたとのことである。
 新型コロナウイルスの影響による業績悪化のニュースが多い中、意外なことと受け止めた方も多いのではないだろうか。旅行業界などはその影響が顕著な業界であるが、旅行会社大手のJTBが資本金を23億400万円から1億円に減資すると報道されたのは今年2月のこと。
 JTBはその時点で2021年3月期に約1000億円の損失が見込まれており、減資により損失を補填できることと資本金1億円以下となることで税制が優遇される中小企業となることが目的だ。
 東京商工リサーチによると同様に今年1億円以下に減資を行う企業は、スカイマークなど都内企業だけで前年比53%増の514社に上るという。2015年に経営再建中だったシャープが同様に減資を試みた際には「大きな企業なのに中小企業のフリをするのか」との批判が相次ぎ、断念した経緯がある。今回は新型コロナウイルスという事情から株主にも受け入れられたということなのだろうが、このように大変厳しい環境の中にも関わらず、法人税が過去最高となるという現実は一体何なのだろう。
 日本の株式市場が持ち直しているという話を聞く。今年2月に日経平均株価が3万円を超えた際、菅首相は「目標の目標のまた目標だった、感慨深い」と述べた。現在は3万円を下回っているが、菅首相が目標に見据えたのは1989年末の最高額だろう。それから30年間、日本の株価は低迷したままである。 一方、米国のダウ平均株価を見ると、1990年からの30年間で10倍になっている。一概に比較はできないが、この30年の間に日本が世界の中で後れをとってきたのは紛れもない事実だ。
 最近「安いニッポン」という本が話題になっている。新型コロナ感染が始まる前の2019年12月に日本経済新聞紙上で特集され始めた記事を再編集して、今年3月に出版されたものである。
 その内容は、年収1400万円はアメリカでは低所得層、ニセコなどの不動産を外国人が買い漁っている、薄給だったアニメーターが続々と中国のアニメ会社に転職しているといった衝撃的な話題が綴られている。
 コロナ禍前の一昨年まで海外からの観光客が日本へ押し寄せていた。日本製品の品質の良さや風光明媚さを目的に外国人が来ていたと思いたいが、実際は自国で購入するよりも日本で買う方が圧倒的に安いと実感できる国の人たちが押し寄せたインバウンド需要であった。日本の国内物価の安さとともに所得水準も、世界の中では決して高くはない水準になってしまったのが現実である。
 今年1月、連合の神津里季生会長とのオンライン会談で、当時経団連会長だった中西宏明氏が「日本の賃金水準がいつの間にかOECD(経済協力開発機構)の中で相当下位になってしまった」と語ったが、年功序列や終身雇用の見直し、就活ルールの廃止などを唱え、日本の経済界を先導した中西宏明氏が先日逝去された。
 経済界の稀有なリーダーを失った日本、これからこの「安いニッポン」はいつまで続くのだろうか。
(多摩の翡翠)

カワセミのコピー


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