新学習指導要領をシンプルに考える

 今回の学習指導要領改訂は「主体的・対話的で深い学び」という具体的な方法にまで踏み込んだものとして注目されている。もちろん、「主体的・対話的で深い学び」が一つのキーワードであることは事実である。しかし、それは目的を達成するための方法である。学校教育の目的を達成するための手段が「主体的・対話的で深い学び」であって、それが目的ではない。

 重要なのは学校教育が「資質・能力」を基盤とした教育へと転換したことである。「資質・能力」を育む教育は三つの柱から成る。「学びに向かう力・人間性等」「思考力・判断力・表現力等」「知識・技能」である。これらの「資質・能力」を育むのが学校教育の目的である。では、その三つの「資質・能力」を育成する先にあるのは何か。「資質・能力」を基盤とする学校教育が想定する「子供=人間像」はどのようなものなのだろうか。


 そこで奈須は「子供を知的な初心者へと育て上げることは、学校教育における最重要の課題」(奈須、2017:p82)と述べる。「資質・能力」を基盤とする学校教育は「子供を知的な初心者」にすることが目的なのである。そして、彼は「知的な初心者」を次のように定義する。

 その領域に固有な知識をほとんど持たない、その意味で初心者でありながら、手際よく新しい領域の学習を進め、優れた問題解決行動を示す人を「知的な初心者」と呼びます。(奈須、2017:p82)

 すなわち、未知の領域に対しても自分なりに問題解決を進めることができる「知的な初心者」を育てることが学校教育の目的なのだ。そして、奈須はこのようにまとめる。

 すべての子供を優れた問題解決者にまで育て上げる。これが資質・能力を基盤とした教育が目指すところです。そして、この目標の実現に必要十分な学習経験は何か。それはどのような学習内容を、どのような教育方法で指導することで効果的にもたらし得るのか。これらの問いに対する理論的・実践的な挑戦が、今まさに世界各国で精力的に進められているのです。(奈須、2017:p82)

 つまり、「子供を優れた問題解決者へと育てるためにどうすればよいのか」という問いに対する、日本の学校教育の現時点での応答が今回の学習指導要領なのだ。今回の改訂にあたっては、「主体的・対話的で深い学び」以外にも、「社会に開かれた教育課程」「カリキュラムマネジメント」など様々なキーワードがある。それらを理解し、どう実践していけばよいのか戸惑うことも正直ある。


 しかし、貫く原理はシンプルなのだ。それは「子供を『優れた問題解決者=知的な初心者』へと育てること」である。したがって、2020年代において学校教育を考える重要な基準は「優れた問題解決者=知的な初心者」を育てることにつながっているのかということである。

<参考文献>
奈須正裕(2017)『「資質・能力」と学びのメカニズム』、東洋館出版社

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