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KAC2020振り返り

小説投稿サイトカクヨムの4周年記念イベント「KAC2020 ~カクヨム・アニバーサリー・チャンピオンシップ 2020~」に参加しました。

2日ごとに発表されるお題に沿って1200~4000字の短編を執筆するという企画で、開催期間は2月29日から3月9日の10日間。各お題ごとに読者賞、速筆賞、レビュー賞などが選出され、5つのお題を完走すればもれなく皆勤賞。副賞として収益化プログラムのポイントがもらえるとあって、書き手はみな血眼になってペンを走らせたものです。

KACは去年も開催されていて、およそ3週間かけて10個のお題を消化するというなかなかにタフな企画でした。完走しているのですが、特に最後の方は息切れしてあまり納得がいくものが書けなかったなあという反省がありました。

今年も似たような企画があることは予測していて、事前に対策も立てて万全の体勢で望んだのが今回のKACと言えます。結果として対策はほとんど役に立たなかったんですが、作品の出来そのものは去年より納得がいくものになったと思います。直前まで休筆状態だったんですが、この企画を弾みに再始動していけそうな気がします。

そんなわけで、ここからは1作ごとに振り返っていきます。

KAC1「名もなき星にさよなら」(現代ドラマ)

お題は「四年に一度」。うるう年というシンプルな処理をしたのでその分、突き詰めた使い方をしています。夢野久作の名作「瓶詰の地獄」に倣って時系列を逆立ちさせた書簡体小説です。

星が題材なのですがあんまり突っ込んだことは書いてません。調べる暇も、取り入れるだけの文字数もなかったからです。たまたま今期放送しているアニメ『恋する小惑星』で得た知識だけで書いてます。

ちなみに、この話はかなり意識的にこれまで考えてきた話をパッチワークして組み上げています。

時系列を遡っていく構成は過去に「膝枕変奏曲」で経験がありますし、手紙を連ねていくスタイルは初期の某2次創作まんまです。上京というテーマも共通します。

星にしたところで、未発表の構想ではよく扱ってる題材だったりしますし、まあ、自分の中では主題上の意味付けがあるんですよ。

進学とか上京というテーマもまあ毎度お馴染みですね。後半に明かされる設定にしても自分の中ではまたかって感じです。こういう設定だと絶対こういう話になるし、こういう話だと絶対こういう設定になるんですよ。

また同じく本編のエピソードタイトルが「あなたへ」となっている近作「ずっと好きだったあなたへ」も意識しています。ああいうシンプルにエモい話をもうちょっと凝ったプロットでやってみようというのが出発点でした。

つまるところかなりルーチン的に考えた話なのですけど、プロットが複雑すぎて、細かい情報開示の段取りで泣きを見ることになりました。お題の発表が週末じゃなかったら確実に落としてましたね。

しかし、わたしは書簡体が得意というわりに毎度、文面があんまり手紙らしくないんですよね。まあ、作者が編集して要らない部分を切ってるんだと考えてください。

あと今回は文字数に見合わない内容だったので、文章に遊びがなかったかなあという反省も。

KAC2「君と永久に明けない夜を」(現代ファンタジー)


お題は「最高のお祭り」。こういう題材は、架空のお祭りでもでっちあげてハッタリの力で読ませるのがかっこいいと思うのですよ。文化祭とか商業的なイベントでもいいんですけど。

ただ、やはりわたしはそういうのが苦手ですし、取材するだけの時間もないので、ありふれた題材を抽象化して書くことにしました。それにしてもクリスマスというのはちょっとわかりづらかったですね。最初は夏祭りにするつもりだったんですが。

作中で冬至の祭りという表現がありますが、これは何もむりくりテーマ処理を図ったわけではなく、ああいう人たちはクリスマスを祝わないだろうと思って伏線として入れ込んだのです。当初は作中ではっきり説明するつもりだったんですが、いざ書いてみるとやってる暇がありませんでしたね。

「名もなき星にさよなら」がミステリに徹しきれなかったので、それらしいのを書こうと思ったのですが、結果的にはむしろSFの方法論に傾いてしまった気がします。つまりハッタリで読ませる内容です。あれ、苦手だったはずなのに。

これを書いて気づいたんですけど、このくらいの長さだとミステリよりSFの方が楽なんですよね。ミステリって設定が意外なだけじゃなくて、それを踏まえたトリックがないとおもしろくしづらいんですよ。単に設定だけを描きたいならSFの方が手短にすみます。このくらいの長さならさほど知識も必要ないですし。

そんなわけで設定を作り込んだのがこの話なのですが、冬至をはじめ言及できなかったものが多く、なんかもったいないなあという気がします。

KAC3「お花茶屋アイリスの吸血ごはん」(現代ドラマ)

お題は「Uターン」。上記2作……にかぎらずわたしの話をよく読んでる方はすでにお気づきでしょうが、わたしは上京ストーリーを書くのが好きなのでお題が発表された時点でだいたいやることが決まりました。夢が挫折して東京に定住するのが「名もなき星にさよなら」でしたが、今度は故郷にUターンする話を書こうと。

その故郷を同じ東京23区に設定したのは、単純に逆説的でおもしろかったのと、一度東京の山の手ではなく下町を舞台にしてみたかったからです。着想はとりあえずこうして逆説を作っていくのが楽だったりします。

もうひとつやりたかったのがグルメもので、どうやったら成立するか考えたらこういうややこしい話になりました。安物食材を調理法でどうにかごまかす発想ですね。

結果として、このお花茶屋アイリスはわたしの創作スタンスを象徴するキャラクターになりました。何重にも迂回させることでようやく尤もらしさが確立できる――その認識がそのままギミックになってます(決して、どんでん返しがしたかったわけじゃないんですよ)。プロにはなれないけど――という部分もわたしの創作スタンスと一致しますね。

だから、食レポ部分はもっと筆を割きたかったんですよ。文字数的に泣く泣く削ったんですが、ここって言ってしまえば物語の結論で、ここでばしっと冴えたやり方を提示してこそ、テーマ――ひいてはわたしの創作スタンスに説得力が出るわけで。

現行の形でも物語としては成立してるんですが、ニュアンスとして未完成さというか、新しい出発点という印象が強くなっていると思います。ここが誤算で、お花茶屋アイリスの軸をちゃんと完成形として描きたかったなと。最後に公開される眷属の数も当初はこれの3倍くらいのものを想定していたんです。

しかし、わたしは吸血鬼が好きですね。現代ファンタジーの題材として幽霊と並んで手頃で便利なのでついつい使ってしまいます。文化史的に充実してる題材ですしね。取っかかりが多く、自由度も高いんです。

KAC4「神様はまだ僕たちのうたを知らない」(ミステリー)

お題は「拡散する種」。遺伝子学的な話に持ってくのが王道かもしれませんが、わたしが即座に連想したのは利己的な遺伝子……つまりミームであり、童謡でした。

童謡は元々、民衆が謡い継いでいたものを国家が近代化の一環として取りまとめ教育に取り入れた歴史があります。しかし、いくら公式があったところで子供たちは勝手に替え歌で遊ぶものです。それがまた新たなミームとなることもあるでしょう。

とにかく童謡というミームのありように何か適当にSF的なガジェットを紐つければお題が処理できるのではないかと考えたのです。まあ、最終的にはそういうニュアンスは全く出せなかったので、他に直球でわかりやすい設定を設けてるのですが。お題の処理としては最低限の形になっちゃいましたね。

見立て殺人を扱ってるのは、童謡からの安直な連想です。出発点は既存のトリックなのですが、それを成立させるために諸々の仕掛けを弄してます。結果として、久しぶりに「ミステリー」が書けました。それも本格ミステリと名乗っても大丈夫そうなやつです。

本格はトリック、ロジック、プロットのどれを重んじるかで分類されることがあるのですが、わたしはプロットに片寄った書き手なのでこういう処理になるのですよ。

やってることはホワイダニットなんですが、なぜ殺したのかではなく、なぜ殺すことにしたのかという問いかけの形になっています。それに、探偵ではなく犯人自身の視点です。つまり、わたし好みの手法なのですが、まあ、成立させようと思ったらこうなるのですよね。

本格なので、動機に未知の情報が絡んではいけないわけです。既出の情報に答えがあるという書き方をしなければなりません。謎解きの段階になって語り手の新しい設定が出てきたりしたら興醒めなんですね。もちろん読者にはそういう展開を予想させてもいいですし、実際、多少は狙っていたのですが。

ここで語られる動機はいわゆる狂人の論理と呼ばれるものでしょう。筋が通ってはいるけど、人間そこまで割り切って行動できないよという動機です。

なので、語り手の人柄をブラックボックスにする必要がありました。こういうキャラを真正面から描こうとすると、狂気に説得力を与えるのに文字数がかかかって構成として美しくないのです。もちろん、終盤まで内面描写を避けることでミスリードを誘う狙いもありました。

終盤にしても極力語り手の感情に言及せず、理屈を語らせるに留めています。そういうのがあるとやっぱり美しくない。

好評の台詞「お前の言いたいことはわかるぞ」はそうした要請から生まれたものです。語り手にしゃべらせたくなかった。猫も同じ目的から用いています。

そういう、構成上の要請から演出を決定していったのですが、結果としてとても自分好みのキャラ描写ができたように思います。キャラの魅力って自分の中で課題だったんですが、この話はうまくいったんじゃないかなあと。いい兄弟が描けました。

なお、最後に明らかになる設定はこの話を成立させるには必要不可欠で、主題ともかかってくる部分なんですが文字数の関係もあってあまり活かせてませんね。

KAC5「わたしと幼馴染みのどっちが大事なんですか!」(ラブコメ)

お題は「どんでん返し」。いつもやってることがお題になってしまったのでかえって取っかかりがなかったのですが、すぐにそれなら既存の構想を使えばいいじゃんと思い至りました。

時間に余裕ができたので遊びで構想を立て勢いで書き上げてしまったのがこの話です。なので、一番時間をかけてません。

これまで散々どんでん返しをやってきといて、その傾向をすかす――というのが最大のどんでん返しではないでしょうか。たぶん。

実のところ、この話にかぎらず今回のKACは特にうまいお題の処理などは考えておらず、着想の取っかかり程度にしか考えてなかったりします。

それはそれとしてなんでこういう話になったかというと、萌えキャラが描きたくなったからです。あざといけどやらしくない、そんな萌えを追求してみようと。

その取っかりとして選んだ題材が幼馴染みで、自分好みの塩デレを描こうと思ったんですができあがったのはなぜかうざい系後輩ヒロインによる独白小説でした。

まあ、わたしはディティールじゃなく構造で強度を得ていくタイプの書き手なのでこういうことがまま起こるのです。着想の時点でイメージしていた語り口をそのまま採用することはそう多くありません。

いちおうラブコメジャンルなのですけど、ヒロインの独白体なのであんまりそれっぽくないですね。でも、わたしが萌えキャラを描こうと思ったらこういう方法が一番向いてる気がします。

わたしは間接的な描写が好きで、特にこういう短い話だと、メイン2人の一方を間接的に表現しがちです。この話ではさらに発展して、もう1人メインキャラを用意して、ヒロインの独白体で三角関係を表現する、という挑戦をしています。

つまるところ三角関係の構成要員で入れ子構造を作ってるわけです。まず一番外側にヒロインの視点があって、その中に先輩の視点があり、そこでようやく幼馴染みについて語られるという感じですね。

で、こういう構造だとヒロインはどうしてもうざキャラになってしまうんです。なぜかというと、この子がアクティブに動いてしゃべり倒してくれないと読者に必要な情報が伝わらないからです。最初は常識人のツッコミキャラにするつもりだったんですが、自然とこうなりました。

独白体とはそもそもが過剰な語りじゃないと成立しないのですが、それをなるたけ自然にするため、先輩の言動をコントロールしています。

簡単に言うと、要所要所で引き気味の演技をつけていて、ヒロインに踏み込ませる形を取っているのです。先輩がしゃべりすぎると、ヒロインが台詞をおうむ返しにするくらいしか情報伝達の方法がなくて嘘っぽいのですよね。

なのでやっぱり構成上の要請が演出上の要請を生み、キャラクター性を決定してるんですね。この辺、書き手に自由はありません。構造を特に重んじず文字数も自由なら別ですが。

KAC5「わたしと彼女のどっちを信じるの?」(ラブコメ)

お題は「どんでん返し」。なんとなく「わたしと幼馴染みのどっちが大事なんですか!」の後日談を幼馴染み視点で書きたくなって勢いで仕上げました。なんとか締め切りに間に合ったので2作ともKAC5にねじ込めました。

前作があんまりどんでん返せなかったから――というわけではありませんが、前作の設定を片端からひっくり返していく内容になっています。こっちから読んでもわかるように書いてはいるのですが、できれば前作から読んでいただきたいところです。

前述の通り、前作を書いた後に構想したので内容は全部後付けです。特にミステリらしいこともしてません。とにかく前提をひっくり返していく前提で、その流れをどう語るか、いかにヒロインの語りを魅力的にできるかが主眼でした。

ただ、やはり後付けなので前作とくらべると構造が弱くなっていると思います。そもそもが幼馴染みの方を描きたかったシリーズなので、彼女本人の語りにすると比重が偏りすぎてしまうのですよね。

幼馴染みのキャラ造形もあんまりうまくいかなかったなあ、と。理屈じゃなく趣味に寄せすぎたんですよね。内容と性格がいまいち噛み合ってない気がします。前作のとこで書いたのと逆のことをやってしまいましたね。決め打ちせず合理的に設定した前作ヒロインのキャラクターの方が際立っています。

そもそも前作と雰囲気が違いすぎるんですよね。独白体なので性格の違いがそのまま雰囲気に反映されてしまったんです。ラブコメというにはちょっと重いんですよね。これは幼馴染みの性格が重いからです。でもわたしはこういうめんどくさい子が好きなのでしかたありません。

この2人で視点を往復させればどこまでも話が続けられる気がするのですが、そうなると毎度聞き手を勤める男の子がいろんな意味で大変なことになりそうです。

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