見出し画像

サヨナラ シャンパーニュ④

「また、失礼な事になってしまって、すまない」 「大丈夫よ、悪いのは津田優也という男だから」
「君に明確な殺意を持たせた男の名前か」
「えぇ、そうよ、かれこれ5,6年は付き合ってたわ」絵莉はグラスを傾けては中身のギムレットを飲み干した。
「あまり、乱暴な飲み方はするもんじゃない、酔いが早く回るぞ」
「思い出したのなら、酔って忘れたいのよ」
「そうか、それなら」とシャンパーニュもギムレットを飲み干した。

「私のお酒に付き合ってもらうことになるわよ」と絵莉はシャンパーニュの顔を伺った。
「もとより、話しかけたのは私の方だ」
「それもそうね、だったら次はキールでも飲もうかしら」
「マスタータカサキ、キールを二つ、これから穏やかではない話になるから、なるべく丁寧に作ってくれ」
「いつも、丁寧に提供しているのですが、かしこまりました。」マスターはムスッとした顔で
聞こえるような音量でつぶやいた。

「今日は失礼なことを言ってばかりだな」
「大丈夫、日本語は誤解を招きやすい言語よ」
「これを機に自分の発言振り返った方がいいな、その彼は君の誤解を招くことはなかったのかい」
「彼は勉強もできて、外資系の会社に勤めてて、誤解を招く発言には人一倍気を遣ってたわ」
「その彼は経歴も気遣いもすごいのか」
「英語も喋れるし、知識もすごかったわ。花言葉や星座にも詳しかった」
「とんだ、ロマンチストじゃないか、その彼が何で君に殺意を覚えさせるまでになったんだ?」

「何も特別なことはないわ、よくある話よ」
「彼は君以外の女性と一線を超えたのか」
「その女の子と近づき方に問題があったのよ」
「君の同僚か、長い間付き合ってた友達か」
「後者の方よ」「その近づき方に問題とは?」
注文したキールが2人の間に用意された。
「このバーはいいタイミングでお酒が出るのね」 「マスタータカサキも気が効く男だと覚えておいてくれ」マスターは微笑みながら、首を横に振った。

「私のインスタグラムに映ってた、高校の同級生と彼は関係を持ったの」
「引き金はそのインスタグラムかい?」
「その時、アップしたのがハワイのビーチで撮った水着の写真で、その時には私とその子を含めて5人映ってた」
「同じオスとして考えるなら、本能が間違った方向に働いてしまったみたいだな」
「その子は私より豊満なバストの持ち主なのは認めるわ」
「その話の筋を通すなら、彼からその女性に近づいたのだろう」
「ご名答、その子に私は彼氏の顔を見せてない」絵莉はキールを口にした。

「それを知ったのは、その子の電話からなの涙をこらえた声で」
「彼は君の存在を隠したまま近づいた」
「それも、彼女はいないなんて嘘ついて」
「君はその子のことを信じたのかい?」
「誰よりも人のことを応援してくれる健気な子よ」
「それがより一層、彼への恨みを強くした」
「私だけでなく、友達と私の思い出も踏みにじったの」
「君は彼をどう問い詰めてたんだい?」
「その電話が来た時、彼の帰りを大好物を作ってたの」
「カレーライスかい?」
「シチューよ、その夜大事な仕事を成功したっていうからリクエストされたの」
「彼は美味しそうに食べれてたか?」
「どうなのかしら、私が怒りに任せてずっと、声を出してたから」
「彼は何て言ってた?」
「知らなかったって言うもんだから、シチューを鍋から彼にかけてやったわ」
「おぉ、やけどはしていなかったか?」
「火を止めて1時間ぐらい経ってたから、やけどはしなくて済んだはずよ」
シャンパーニュはそれを想像するやいなや、震えながらキールを口にした。

「そんなんだと、彼がどんな謝罪をしても誠意はこもってなかっただろう」
「申し訳ないとは思ってるわ」
「津田優也にかい?」
「いや、ぶちまけたシチューには」
絵莉はグラスのキールを揺らしながらバーカウンターを見つめていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?